いつか、眠りにつく日3

 いいよ、と侑弥が私の手を引いてベンチに腰をおろした。隣に座り、静かに呼吸を落ち着かせた。
 侑弥になんて説明すればいいのだろう。
 けれど、侑弥はうれしそうに人差し指を空に向け、指先までオレンジに染まるほどの空に目を細めた。

「今日の空は美しいね」
「あ、うん」
「はじめて会った日みたいだ。月まで浮かんでいるよ」

 存在感を強めている月が東の空にあった。

「ねえ、侑弥。私ね――」
「俺のせいだよね。ごめんな」

 (さえぎ)る言葉に横を見ると、侑弥は薄く笑って目を伏せた。

「俺が告白したから、会いにくくなったんだろ?」
「ちが……」
「バカだよな、俺も。引っ越しの話をしてから告白するなんてさ」

 おどける彼に首を必死で横に振った。
 違うんだよ、侑弥……。

「でも本気なんだ。返事がNOだったとしても夕日仲間のままでいてほしい。それを伝えたかった」

 まっすぐ私を見つめる侑弥を見ることができない。
 でも、ちゃんと自分の答えを伝えなくちゃ。そのために私はここに来たんだから。
 ゆっくりと視線を落として、私は口を開く。

「あのね……いいニュースと悪いニュースがあるの。どっちから聞きたい?」

 少し瞳を開いた侑弥が、
「これはまずい展開だ」
 とため息をついた。

 少し悩むように宙を見てから、侑弥はペコリと頭を下げる。

「いいニュースからでお願いします」
「うん」

 すう、と息を吸いこむ。
 大丈夫、もう苦しくない。
 侑弥がこれからも生きていけるようにちゃんとお別れを言葉にしなきゃ。

「私も侑弥のことが好き。侑弥が想ってくれるずっと前から好きだった」
「え……」
「だけど、口にすると会えなくなりそうで言えなかった」

 何年も前からずっと好きだった。何度もうしろ姿に告白していたんだよ。顔を合わせると言えないことでも、その背中には言えたんだ。

「マジかよ。ああ、それってめっちゃいいニュースだ」

 うれしさをかみしめるように握り拳を作る侑弥。
 本当は泣いてしまうかも、と思っていた。
 だけど、やっぱり私は泣けない。
 この間、久しぶりに泣いたせいで涙が枯れてしまったのかな……。