ニコニコ顔に戻ったシロはあからさまにホッとしている。なにか隠しているような気がするけれどそれを指摘するのもはばかられ、また歩きだした。
 いつだって本当に言いたいことは言えない。嫌われたくなくて、明るい七海を演じてばかりだった気がする。

 侑弥のこともそうだ。
 今、会えたとして、私はどんな返事をするのだろう。こんなことになるなら、もっと彼と話しておけばよかった。
 ああ、また気持ちが重くなってくる。お母さんとケンカしたときや、テストの結果が悪かったりクラスで嫌なことがあったとき、こういう気分になることがあった。
 このまま暗い気持ちにのみこまれるのは嫌だ。

 こういうとき、私は……。

「ちょっと家に戻ってみる」

 そう言った私に、
「え!?」
 シロは短く声をあげた。

「大丈夫、家には入らない。ハチと散歩したいだけだから」

 そうだよ。ハチと一緒なら気持ちも明るくなれそう。姉弟みたいに育ったハチにはいつも慰めてもらっていたから。

「でも……。ハチは本当の未練の相手じゃないでしょう?」

 表情を曇らせるシロに構わず、足を家の方向へ向けた。

「ハチの体はまだ光っているんだよ? 未練を解消していないわけだし、違う散歩コースに行ったりしてみるのもいいかも。案外、私の体も光っちゃうかも」
「大丈夫かなあ。ヘンな地縛霊に絡まれたりしたら困るよ」

 案外シロは心配性なのかもしれない。

「そういうときのためにシロがいるんじゃん」
「言ってなかったっけ? 僕、一緒には行けないんだよ」
「え、そうなの?」

 足を止めると、シロがパタパタと近づいてきた。

「だから心配。できれば、公園で昼寝とかしててほしいんだけど……」

 シロの気持ちはわかるけれど、もう心はハチに会いたい気持ちで満たされている。
 説得をくり返し、最後は半ば強引に私は家へ向かった。
 昼間に散歩なんて珍しいから、きっとハチはよろこんでくれるはず。

 疲れたハチがギブアップするまで、思いっきりハチと走り回ろう。