意味がわからない。
 するとクロは意外そうに眉間にシワを寄せた。

「俺はただ元気づけてやろうと思っただけだ」
「余計に落ちこむって」

 はいはい、と肩をすくめるクロ。気づくと口から白い息は出ておらず、気持ちが落ち着いてきているみたい。

「でも、元気づけようとするなんて、クロってほんとは感情があるんじゃないの?」
「ない。絶対にない」

 断固として拒否を示してからクロは右手を挙げた。

 すぐに生まれた煙に包まれながら、
「ほかの仕事をしてくる。逃げるなよ」
 そう言い残して消えた。

 なによ、言うだけ言ってすぐにいなくなるんだから。

「七海ちゃん、とりあえずここで待ってる? それともほかの未練も探す?」

 散歩に行く犬みたいにワクワクした顔をしているシロを改めて眺める。

「シロは感情の塊みたいな感じだね。そのうち、クロみたいになるの?」

 クロがよくするムッとした顔の真似をしてみせると、コロコロとシロは笑った。

「すごく似てる!」
「でしょ。ポイントは冷めた目をすることだよ」
「おもしろい。クロさんは冷静でかっこいいけど、僕は、自分の感情をなくさないよ。だって、僕は僕だし」

 自信たっぷりなシロに安心した。

「よかった。シロは今のままがいちばんだと思うよ」

 まぶしい光を手で遮りながら、公園を出る。

「どこに行くの?」
「まだ夕方までは時間があるし、総合病院へ行ってみる」
「ソーゴービョーイン?」
「総合病院。おばあちゃんが入院してるの。ほら、私、勝手におばあちゃんが亡くなったって勘違いしたでしょう? おばあちゃんに会うのも未練のひとつかもしれないし」

 口にしながら考えがまとまる感じ。
 死んでからは行動をしながら考えることが多くなっている気がする。
 けれど、シロは「うーん」とうなって足を止めた。

「まずは侑弥さんのほうに集中したほうがいいんじゃない? ふたついっぺんにやるとうまくいかないかも」

 珍しく真剣な口調に首をかしげると、
「あ、今のは僕の意見だから。七海ちゃんの好きなようにしていいよ」
 慌てて取り(つくろ)うようにシロは右手を横にブンブンと振った。

「たしかにそれも一理(いちり)あるね。昔からいっぺんにふたつのことできなかったし」
「でしょう」