「急なんだね」

 なんとかそう言えた。
 泣けない自分をこれほどありがたいと思ったことはない。
 侑弥はきっと、私が平気な顔をしているように見えているはず。

「運命を呪うよ。昔から転校ばっかりだから仕方ない。そのくせ親は、『家族は一緒にいるべきだ』って当然のように言うんだぜ」

 夕焼けが消えていく。紫色を強めていく空には、名残(なご)惜しそうにまだ白い雲が流れている。

 ――侑弥がいなくなる。

 私の片想いは、これで終わりを迎えるのかな……。
 いや、きっと違う。
 これからはひとりで、ここで彼のことを想い続けるんだ。
 やだな。恋ってこんなにも苦しいばっかりなんだ……。
 だとしたら、もっと自分から話しかければよかった。そうすれば、侑弥の悪い部分も知れただろうし、嫌いになれたかもしれない。

「もうひとつのほうなんだけど」

 侑弥の声に思考を中断した。
 そうだった、もうひとつ、もっと悪いニュースがあるんだった。

「うん」

 うなずきながら心の耳を塞ぐ。もうこれ以上、聞きたくないよ。
 侑弥はベンチの前にある手すりに進むと腰をおろした。暗くなっていく世界では、彼がどんな表情をしているのかわからない。

 数秒の沈黙のあと、侑弥は言った。

「七海のことが、好きなんだ」