そんなことを考えていたときだった。振り向いた侑弥が私の隣に腰をおろしたのだ。
 隣に座ったなんて、どれくらいぶりか忘れるほどのこと。
 驚いている私に侑弥は空を指さした。

「今日の夕日はめちゃくちゃきれいだね」
「あ、うん……」
「空はすごいよな。なんでずっと見てても飽きないんだろう」

 背が伸びた気がする。髪も前よりは長くなっている。

「七海はどうして空が好きなの?」

 久しぶりにされた質問に、ハッと息をのんだ。
 そうだった、もともとここに来るのは夕日を見たくてのことだった。侑弥に会いたくて、という理由にいつから変わったのだろう。最近じゃ、空を見るよりも、侑弥のうしろ姿ばかり見ていたっけ……。

「昔から好きだったの。理由はわからない」
「ひょっとして、前世がそういう研究をしていた人だったのかもね」

 そんなことを言う侑弥に私は顔をしかめてみせた。

「侑弥だってそうだったかもよ。たぶん、私よりも夕日が好きだもん」

 私は夕日よりも好きなものができてしまったから。

「じゃあ俺、夕日仲間のリーダーに昇格ってことでいい?」
「うん。じゃあ任命します」

 冗談めかしていう私に、侑弥は八重歯を見せて笑った。
 今日の侑弥はどうしたんだろう。あからさまにいつもより多く話をしてくれる。
 ああ、きっと今夜はうれしくて、明日はもっと切なくなるんだろうな。
 侑弥の言動ひとつでよろこんだり傷ついたりするような、そんな弱い恋だから。

「知ってる? はじめてここで会ってから、もう丸三年も経ったんだ」

 侑弥の頬を染めるオレンジ色がもう消えそうなほど弱い。

「そうだっけ?」

 なんて。傷つかないように予防線を張る自分が、私は嫌い。

「俺さ、たまに思うんだ。実は、七海は幽霊なんじゃないかって」
「ちょっと、それはひどくない?」
「冗談だよ。でも、ちょっと本気だったりもする」

 おどける侑弥に少々の反撃を試みたくなった。

「それを言うなら私だって同じ。侑弥こそ幽霊みたい。週に二回だけ現れる幽霊とふたりでいる気分になるときがあるもん」