恋は続く。

 毎週火曜日と木曜日だけ会えることが、平凡な毎日のなかで楽しみだった。
 会えば会うほど、侑弥は不思議な人だと感じている。
 出会って三年も経つのに、たくさん話をしたのは最初の日だけ。

 ここで会っても、彼は手すりのそばで黙って空を見ている。
 私はその背中と夕日を一緒にまぶたに焼きつける。そんな日々。

 もちろん、会えば挨拶をするし、たまに話かけてもくれた。
 内容はどれもたわいないことばかり。天気のこと、体調がいいとか悪いとか。
 勇気を出して私がなにか尋ねても、『そうだね』が答えの大半だった。彼はルールでも決めているように自分のことをあまり話さなかった。
 夕日が終われば、彼は『また』と二文字だけの挨拶をして帰っていく。

 たとえるならネコ。それも、なつかないネコみたい。
 近寄れば遠ざかるし、離れればそばに来る。
 中学二年になったばかりの私は、いつの間にかあと数日で高校二年生になろうとしている。

 片想いも丸三年が過ぎようとしていて、でも絶対にかなわないんだというあきらめを感じていた。
 この約三年間の進捗(しんちょく)は、メッセージアプリのアドレス交換をした程度。
 侑弥が好きなのはあくまでも夕日。私は夕日仲間として、週に二回会うだけの女子。
 雲が太陽を隠す日に彼は来ないし、梅雨時期は一カ月会えないこともあった。

 久しぶりに会えたとしても、彼はなにも変わらない。軽い挨拶をしたあとは、自分の世界に入ってしまう。
 会えるだけで幸せだった日々には、いつしか苦い気持ちも混在していた。
 好きになるほどに相手のことを知りたくなる。

 どんな家に住んでいるの?
 どんな家族なの?
 どんな友達がそばにいるの?
 どんな子が好きなの?
 たくさんの『どんな』を口にすれば、もう会えない気がした。

 今日の夕日はあまりにも美しく、たなびく初春の雲を金色に染めている。
 ベンチに座り、彼の背中に小さく「好き」とつぶやいてみる。呪文のようにうわごとのように言っても、小さすぎる声は侑弥に届かない。
 彼のうしろ姿にだけは素直になれる恋。

 愛梨は『もうやめたら?』とアドバイスをくれる。そうできたらどんなにいいか。うなずく一方で、絶対にやめたくないと願う自分もいる。
 私が勝手に好きになっただけなのに、糸を複雑に絡ませて苦しんでいる。
 恋に泣けたならば、ちょっとはラクになれるのかな。