ベンチに座り、思い出話をする私にクロが述べた感想は、
「くだらん」
 のひと言だった。

 思い出話をしながら高台の公園にやってきた私たちは、ベンチに腰をおろしている。

「なによ、そっちが聞いてきたくせに」

 しっかり思い出すのが大切だ、と言ったくせにひどすぎる。
 私の不満を鼻で笑うと、クロはベンチの背もたれに体を預けた。

「くだらんものはくだらん。俺は、お前に未練の内容を思い出させるための手伝いをしているだけだ」

 隣で足を組むクロが「で」と先を(うなが)してきた。
 シロは手すりにもたれ、まだ高い位置にある太陽を浴びている。

「毎週火曜日と木曜日は彼に会えた。桐島侑弥っていう名前を知ったのは、一カ月くらい経ってからだった。お互いに自己紹介もしていないなんて、って笑ったっけ……」

 名前を聞く前にはもう好きになっていた。
 彼の中学は私立で、高校もエスカレーター式で進めるそうだ。授業のスケジュールは私の中学よりも緩いらしく、たいてい彼が先に到着していた。

 公園の入り口でベンチに座る彼のうしろ姿を見るとうれしかったし、どんなに嫌なことがあってもそれで救われた。

 好きな気持ちはどんどん強くなり、火曜日と木曜日は私にとって特別な日になった。

「それなのに、どうして忘れていたんだろう……」

 好きだったのに。今でも大好きなのに……。

 悲しみは涙には変わらない。最近はすぐに泣いちゃっていたのにな。

「告白したのは七海からか?」

 その質問に、胸がキュッと痛くなる。もう死んでから久しいのに、感情はまだ生きているときと同じみたい。
 地縛霊になったなら、こういう感情も少しずつ消えていくのかな。

「ううん。侑弥からだった」
「へえ。案外、モテるんだな」
「案外、は余計なお世話」

 そんなことを言いながらまた気持ちが塞いでいくのがわかる。
 人生ではじめて告白された日、私は最高に幸せで、最高に不幸せだった。

 その理由はなんだったのだろう?