公園で夕日を見るのが昔から好きだった。
 普段はハチの散歩があるので学校のあとは家に直帰していたけれど、火曜日と木曜日はお母さんが代わってくれている。

 だから私は週に二日間だけ、下校の途中に高台にある公園に寄る。
 もちろん晴れた日限定だけれど。

 いつも人気(ひとけ)のない公園で、ほかの人の姿はあまり見かけない。遊具もほとんどないし、ベンチと砂場がある程度の小さすぎる公園。

 けれど、ベンチがある場所からは町が見おろせる。遠くに落ちる太陽は日によって色も大きさも違うし、雲がある日は金色にだって見えたりもする。
 最近は暮れる時間も遅くなったので、急いでここに来なくてもよくなった。

「きれい……」

 買ってもらったばかりのスマホで写真を撮っても、見た目よりもはるか遠くに夕日が小さく写るだけ。
 ズーム機能を使うと画像が荒くなるし、なによりも肉眼で見るのとはずいぶんと違う。
 カバンにスマホを落としたときだった。

「すごい夕焼けだね」

 すぐ近くで声がした。
 いつの間にいたのか、右前の手すりに手を置いた男子が私を見ている。

「え?」
「この町はこんなに美しい夕焼けが見られるんだね」

 美しい、という言葉を同い年くらいの男子が使うことに驚いてしまう。

「あの……」

 と言いかけて言葉を失ったのは、夕焼けを背負っている彼がそれこそ美しく見えたから。

「君は中学生?」
「はい。中学二年……あ、もうすぐ二年生です」
「僕はもうすぐ三年生。といっても、自転車で三十分もかかる学校らしいけど」

 苦笑する彼に首をかしげた。
 すぐに彼も自分の言いかたがおかしいことに気づいたらしく、「ああ」と発した。

「引っ越してきたばかりなんだ。だからまだ新しい中学校も見ていないんだ」
「そう、なんですか」

 カタコトで答えてしまう私に彼は、
「ひょっとして俺、緊張させちゃってる?」
 なんて尋ねた。ひょっとして、じゃなく確実にそうです。

 そんなことを言えるはずもなく、
「いえ」
 小刻みにプルプルと首を横に振ると、彼はおかしそうに笑った。
 空気を溶かすようなやわらかい笑みだった。