トランクが開けられると同時に、まぶしい光がダイレクトに降り注いできた。

「着いたぞ。早く降りろ」

 むんずと腕をつかまれて地面に降り立つと同時に、ヘナヘナと座りこむ。

「ほら行くぞ」

 住宅街のはずれにある一軒家の前でタクシーは停まったようだ。景色が波打つように揺れていて、ものすごく気持ちが悪い。

「乗り物酔いか?」

 ニヤリとするクロをにらむ元気もない。

「景色が見えないだけであんなに酔うものなんだね」

 こみあげる吐き気と戦いながら顔をあげると、吉野が門の手前にあるインターホンを連打していた。
 有希子さんは庭にある木に隠れて顔だけ出している。
 なんとか立ちあがり有希子さんのそばへ行った。

「おい、寝てるのか!」

 近所迷惑も構わずに叫ぶ吉野は、まだ酔っているように見えた。
 有希子さんは緊張した顔で視線をドアへ送っている。そっか、久しぶりに娘さんに会えるんだもん、そうなるよね……。

 本当に凛ちゃんには会わないつもりなのかな。その選択が正しいかどうか、私にはわからないけれど、たしかに吉野の行動は目に余る。

「なんとかあの人を懲らしめられないの?」

 塀に腰かけているクロに尋ねるけれど、
「無理だな。俺は死神じゃない」
 なんてそっけない態度。

「でも、このままじゃ凛ちゃんが――」
「なあ有希子」

 クロが私の言葉を遮って口にした。

「お前の娘は、この一年よくがんばったよ。お前が病気になっても健気(けなげ)に看病をして、最後も立派に見送った。葬式での弔辞は俺以外みんな泣いてたぞ」
「そうだったのですか……。あの子、昔からしっかり者でしたから」

 ひょいと塀からおりたクロが、ゆっくりと私たちに近づく。

「お前が地縛霊になんかならなくたって、凛はちゃんと考えている。見てろ」

 クロの言葉と同時にドアが開いた。
 若草色のカーディガンにオレンジのスカートを穿いた少女が現れた。私よりも長めの髪で、前髪は直線にそろっている。黒縁のメガネがよく似合っていた。
 その体は私がこれまで見てきたものよりも強く光っている。

「凛……」

 同時に有希子さんの体も金色の光を放ちはじめた。

「有希子、もっと隠れないと見つかるぞ」

 クロがそう言うと、洟をすすりながら有希子さんは木の幹に隠れた。
 吉野は嫌な笑みを浮かべて門を開けようとした。

「開けないでください。私に会ってはいけないことになっているはずです」

 はっきりとした口調で凛ちゃんは言う。

「は? 俺たち親子だろ?」
「知りません。何度も申しておりますが、私にはあなたの記憶はありません」
「そう言うなよ。なあ、有希子のことは残念だったな。こう見えても俺も心を痛めているんだぜ。なんたって、別れたとはいえ愛した人だからさ」

 ニヤニヤしながら言う吉野に石をぶつけてやりたくなった。
 たしかにこれは地縛霊になってでもなんとかしたい相手かもしれない。