謝ってばかりのシロに「大丈夫」と答えた。

「クロの手伝いをやらされているんでしょう? 大変だよね」
「あ、うん……」
「だいたいクロが悪いんだよ。未練の内容を教えてくれれば済む話なのに、ヒントすらくれないんだよ」

 そう言ってからハッと気づく。こういうシチュエーションの場合、たいていクロが近くにいて、『悪かったな』とか嫌みを言ってくることが多いから。

 キュッと口を閉じる私のうしろで、
「悪かったな」
 やっぱりクロの声がした。

 予想通りすぎて、反省よりもムカついてしまう。

「だって本当のことでしょ」

 振り向くと、ベンチの横にある桜の木にクロはもたれるように立ち、腕を組んでいた。

 そして、その横には……さっき吉野の部屋で見た女性が立っていた。

「きゃあああああ」

 叫ぶ私に「うわあああ」シロが驚いてベンチから激しく転げ落ちた。

「痛い痛い!」

 わめくシロの体の向こうへ隠れる。
 って、あれ……? そもそもなんでクロと一緒にいるわけ?

「お前のそういうところ、単純すぎて笑えるな」

 あきれ顔のクロは、言葉とは裏腹にちっとも笑っていない。
 隣の女性が私を認めてお辞儀をした。

「驚かせるつもりはありませんでした。申し訳ありませんでした」

 ああ、やっとわかった。おそるおそる立ちあがる。

「ひょっとして……あなたも亡くなっているの?」

 わずかにうなずく女性の口からは白い息が漏れている。

「そうだったんだ……」
「お化けがお化けに驚くな」

 あいかわらず笑わないクロにムッとした。だけど、自分の観察不足にも悔いが残る。
 よく見ると、女性の体はどこか薄く、輪郭も景色に溶けているようだった。

森上(もりうえ)有希子(ゆきこ)と申します」
「あ……雨宮七海です」

 自己紹介をしてから私たちはベンチに腰をおろした。男性陣ふたりは、桜の木にもたれるように座っている。
 有希子さんの体は光っていなかった。これは地縛霊になっているってことだろうか?