「明日から五月だな」
さっきからクロはこの言葉をくり返している。
保健室のベッドで、オレンジ色に染まる天井を見ている夕暮れ。下校する生徒たちはいつもより楽しげに騒いでいる。
そっか、今年はゴールデンウィークの連休が例年よりも早くはじまるんだっけ……。
ぼんやりした頭で考えていると、
「ああ、もう五月だなあ」
さっきよりも大きな声でクロが言った。
さすがに私でもわかる。
これは、嫌みだ。
「さっき目が覚めたばかりなんだから待ってよ」
天井に目をやったまま文句を言うと、
「んだよ」
ぶっきらぼうにクロはそばにあった丸椅子に腰をおろした。
愛梨との未練解消のあと、結局寝こんでしまった私。
今回は五日間意識を失い、体力が戻るまでさらに数日かかっている。
「だいたいお前は体力がなさすぎるんだよ。こんなに寝てばっかりのやつは見たことがない」
不機嫌全開のクロ。シロは目覚めてからは姿を見ていない。
「でも、ちゃんと未練解消はしたよ」
愛梨のことを思えばすぐに視界が潤んでしまう。
私との再会の記憶がなくなったあと、愛梨は元気で過ごせているのかな……。
つーっとこぼれる涙をそのままに目を閉じた。
「こら、寝るな」
「寝てない。やっと泣けるようになったんだから、放っておいてよ」
掛け布団を眉毛まであげる。
ほんと、クロは失礼な人だ。
感情がないから当たり前といえばそうだけど、少しは気を遣ってほしい。私だってはじめてのことだらけなんだからね。
「泣けるようになった? お前、本気でそう思ってるのか?」
「は?」
ガバッと掛け布団をのけると、クロがいぶかしげな顔をしていた。
「どういうこと? だって泣いてるじゃん、ほら」
目じりを指さす私に、クロは「ぶっ」と噴き出した。
「七海はおもしろいことを言う人間だな」
「え、どういうこと?」
「それは本当に泣いているとは言わん。お前は、泣くことの意味を間違えているんだよ」
いや、実際に泣いているし。
体を起こし、本格的に文句を言おうとする私をクロは右手を広げて制した。
さっきからクロはこの言葉をくり返している。
保健室のベッドで、オレンジ色に染まる天井を見ている夕暮れ。下校する生徒たちはいつもより楽しげに騒いでいる。
そっか、今年はゴールデンウィークの連休が例年よりも早くはじまるんだっけ……。
ぼんやりした頭で考えていると、
「ああ、もう五月だなあ」
さっきよりも大きな声でクロが言った。
さすがに私でもわかる。
これは、嫌みだ。
「さっき目が覚めたばかりなんだから待ってよ」
天井に目をやったまま文句を言うと、
「んだよ」
ぶっきらぼうにクロはそばにあった丸椅子に腰をおろした。
愛梨との未練解消のあと、結局寝こんでしまった私。
今回は五日間意識を失い、体力が戻るまでさらに数日かかっている。
「だいたいお前は体力がなさすぎるんだよ。こんなに寝てばっかりのやつは見たことがない」
不機嫌全開のクロ。シロは目覚めてからは姿を見ていない。
「でも、ちゃんと未練解消はしたよ」
愛梨のことを思えばすぐに視界が潤んでしまう。
私との再会の記憶がなくなったあと、愛梨は元気で過ごせているのかな……。
つーっとこぼれる涙をそのままに目を閉じた。
「こら、寝るな」
「寝てない。やっと泣けるようになったんだから、放っておいてよ」
掛け布団を眉毛まであげる。
ほんと、クロは失礼な人だ。
感情がないから当たり前といえばそうだけど、少しは気を遣ってほしい。私だってはじめてのことだらけなんだからね。
「泣けるようになった? お前、本気でそう思ってるのか?」
「は?」
ガバッと掛け布団をのけると、クロがいぶかしげな顔をしていた。
「どういうこと? だって泣いてるじゃん、ほら」
目じりを指さす私に、クロは「ぶっ」と噴き出した。
「七海はおもしろいことを言う人間だな」
「え、どういうこと?」
「それは本当に泣いているとは言わん。お前は、泣くことの意味を間違えているんだよ」
いや、実際に泣いているし。
体を起こし、本格的に文句を言おうとする私をクロは右手を広げて制した。