ふいに愛梨の体から出ている金色の光が弱くなった。もうすぐ愛梨から私の姿は永遠に見えなくなるんだ。

 だとしたら、私は……!

 愛梨の頬をむんずと両手でつかみ、強引に私に向かせた。

「ふふ、ひどい顔」
「……そっちだって」

 モゴモゴと答える愛梨に私は言う。

「愛梨、ありがとう。あなたが親友でよかった」

 未練解消なんて、結局は苦しいだけだと思っていた。
 でも、さよならを言える機会をもらえたのなら、ちゃんと伝えたい。

「苦しい……」

 変な顔になっている愛梨を見て、私は泣きながら笑った。
 見ると、愛梨も少しだけほほ笑んでいる。

 きっと、愛梨は大丈夫。

 そう思ったとたん、また涙があふれてきた。ずっと泣けなかったせいか、一度泣きはじめるとまるでダムが崩壊したみたいに止まらない。

 ああ、愛梨の体から光が消えかけている。もう、夕暮れのオレンジに負けそうなほどに弱く、はかない光になっていた。
 手を離すと、愛梨はぶうと頬を膨らませた。

「ほんっと、七海はひどいんだから」
「いつか、また会えるよ」

 それが本当かどうかはわからない。
 ただ、愛梨が笑顔になれることだけを願った。

「うん。そっか……なんだか少しだけスッキリした気がする」

 まだ涙があふれているのに愛梨はそんなことを言う。手を握れば、すがるように力強く握り返してきた。
 彼女のなかで、私の人生は今、終わりを告げようとしているんだ。

 ふいに愛梨の視線が揺らいだかと思うと、
「え……」
 戸惑うように私を見た。

 きっと私の姿は見えなくなってきているんだろう。
 最後に笑わなくちゃ、笑顔でさようならをしなくちゃ。

 だけど、ダメだった。

 悲しくて悔しくて、いろんな感情の涙があふれて笑えないよ。

「七海、七海っ!」

 すぐそばにいるのに愛梨は視線をさまよわせて叫ぶ。
 同時に、つないだ両手が私の体をすり抜け、ぱたりと落ちた。

「嫌だよ。やっぱりこんなの嫌だよぉ」

 体を丸めて泣く愛梨に、もう私の言葉は届かない。
 最後に笑えばよかった。
 未練解消ができても、余計に違う未練が(つの)るみたいな気分だ。

 夕暮れは急速に夜へ色を変えていく。

 しばらく泣いたあと、愛梨が急に「え!」と声を出して顔をあげた。

「なんであたし泣いてるの?」

 ゴシゴシと制服の袖で涙を拭うと、愛梨は鞄を手に立ちあがる。
 そうして、もう私を振り返ることなく教室を出ていった。

 足音さえ消えていく。

「さよなら、愛梨」


 つぶやけば、また悲しみの波がざぶんと押し寄せてきた。