「嘘じゃないの。愛梨、私……」
「だって、あたしたちまだ二年生になったばっかじゃん。それなのに、そんなのないよ」
うずくまりそうな愛梨を隣の席に座らせた。
自分の椅子を近づけたとき、愛梨はもう大粒の涙を流していた。
「信じられないよ。これって夢なの?」
震える声と、潤んだ瞳で私に問いかける。
「だって、先生だって、すぐによくなるって言ってたよ。それなのに……どうして?」
「わからないの。そもそも、自分がなんで死んだかも思い出せない。愛梨はなにか聞いてる?」
「それは――」
と言いかけた愛梨がなにかを思い出したようにサッとうつむいた。
まるで禁句を口にしてしまったように、貝のように口を閉ざす。
「教えてほしいの。なんだか記憶がバラバラになっていて、うまく思い出せないんだよ」
「でも……。いいのかな?」
「本人が言ってるんだから許可します」
冗談めかして言うと、ようやく愛梨は視線を私に戻した。
「あたしたちは……事故に遭ったって聞いてる」
「事故……」
やっぱり、という思いがあった。病気でないなら、考えられるのは事故くらいだろう。
そんなふうに漠然と想像していたから。
「でもね、そんなにひどい事故じゃなかったって聞いてる。クラスのみんなもそう信じていた。なのに……本当に?」
きっとまだ発表になっていないだけで、先生たちは知っているんだろうな。動揺させるといけないから、たぶん連休前とかに伝えるつもりなのかも。
「病院に行っても、家族以外は会えないって言われて……。だけど、あきらめられなくて何度も行った……。まさか、亡くなってたなんて、そんなの信じられないよぉ」
ボロボロ涙を流す愛梨の手を握るけれど、私は泣かない。
まるで実感がなかったし、今は悲しみの波にのまれてはいけないと思ったから。
「愛梨にね……さよならを言いたかったんだ」
「やだよ。そんなこと言わないでよ」
ぐちゃぐちゃに愛梨は顔を歪ませている。
いつの間に退出したのか、教室のなかにクロとシロの姿はなかった。同時に、自分の体から光が出ていないことを確認する。
愛梨も、私の本当の未練ではなかった、そういうこと?
「七海は、幽霊になって……あたしの前に来てくれたの?」
「幽霊ってことになるのかな。自分の未練を解消してからあっちの世界ってとこに連れていかれるんだって」
「嫌。そんなのないよ……あんまりだよぉ」
つないだ手が離れ、まるで子供みたいに愛梨は泣き声をあげた。
いつも笑っていて、明るくて元気な愛梨が、こんなふうに泣くなんて……。
愛梨はこの先、大丈夫なのかな?
そう考えたとたん、グッと喉元になにかがこみあがってきた。
あ、と思ったときには、もう視界が潤んでいた。
ぽろりとこぼれた涙は、次々に頬を伝っていく。この悲しみが涙と一緒に流れてくれればいいのに、泣くほどに雪のように積もっていくみたい。
愛梨は私がいない世界を生きていけるの?
彼女を思えば、悲しみの涙は海になる。ざぶんと、私を海底へ沈めるよう。
未練は、願いに似ていると思った。私の願いは、愛梨がこれからも笑顔でいること。
「聞いて」
涙声をこらえて言うけれど、
「……嫌。聞きたくないよ」
愛梨はかたくなに首を横に振る。
「時間がないの。ちゃんと愛梨に伝えたい」
「…………」
嗚咽を漏らしてうつむく愛梨に、私は言う。
「愛梨はいつも明るくて、大好きだったよ」
「お別れみたいなこと言わないで」
鼻声の愛梨。私も顔もひどい状態になっているんだろうな。
「これから先も元気でいてね。私がいなくなっても、笑っていて。愛梨が笑っていると私は幸せだから」
「笑えるわけないじゃん。無理だよぉ」
あああ、と声をあげて愛梨は泣いている。
「だって、あたしたちまだ二年生になったばっかじゃん。それなのに、そんなのないよ」
うずくまりそうな愛梨を隣の席に座らせた。
自分の椅子を近づけたとき、愛梨はもう大粒の涙を流していた。
「信じられないよ。これって夢なの?」
震える声と、潤んだ瞳で私に問いかける。
「だって、先生だって、すぐによくなるって言ってたよ。それなのに……どうして?」
「わからないの。そもそも、自分がなんで死んだかも思い出せない。愛梨はなにか聞いてる?」
「それは――」
と言いかけた愛梨がなにかを思い出したようにサッとうつむいた。
まるで禁句を口にしてしまったように、貝のように口を閉ざす。
「教えてほしいの。なんだか記憶がバラバラになっていて、うまく思い出せないんだよ」
「でも……。いいのかな?」
「本人が言ってるんだから許可します」
冗談めかして言うと、ようやく愛梨は視線を私に戻した。
「あたしたちは……事故に遭ったって聞いてる」
「事故……」
やっぱり、という思いがあった。病気でないなら、考えられるのは事故くらいだろう。
そんなふうに漠然と想像していたから。
「でもね、そんなにひどい事故じゃなかったって聞いてる。クラスのみんなもそう信じていた。なのに……本当に?」
きっとまだ発表になっていないだけで、先生たちは知っているんだろうな。動揺させるといけないから、たぶん連休前とかに伝えるつもりなのかも。
「病院に行っても、家族以外は会えないって言われて……。だけど、あきらめられなくて何度も行った……。まさか、亡くなってたなんて、そんなの信じられないよぉ」
ボロボロ涙を流す愛梨の手を握るけれど、私は泣かない。
まるで実感がなかったし、今は悲しみの波にのまれてはいけないと思ったから。
「愛梨にね……さよならを言いたかったんだ」
「やだよ。そんなこと言わないでよ」
ぐちゃぐちゃに愛梨は顔を歪ませている。
いつの間に退出したのか、教室のなかにクロとシロの姿はなかった。同時に、自分の体から光が出ていないことを確認する。
愛梨も、私の本当の未練ではなかった、そういうこと?
「七海は、幽霊になって……あたしの前に来てくれたの?」
「幽霊ってことになるのかな。自分の未練を解消してからあっちの世界ってとこに連れていかれるんだって」
「嫌。そんなのないよ……あんまりだよぉ」
つないだ手が離れ、まるで子供みたいに愛梨は泣き声をあげた。
いつも笑っていて、明るくて元気な愛梨が、こんなふうに泣くなんて……。
愛梨はこの先、大丈夫なのかな?
そう考えたとたん、グッと喉元になにかがこみあがってきた。
あ、と思ったときには、もう視界が潤んでいた。
ぽろりとこぼれた涙は、次々に頬を伝っていく。この悲しみが涙と一緒に流れてくれればいいのに、泣くほどに雪のように積もっていくみたい。
愛梨は私がいない世界を生きていけるの?
彼女を思えば、悲しみの涙は海になる。ざぶんと、私を海底へ沈めるよう。
未練は、願いに似ていると思った。私の願いは、愛梨がこれからも笑顔でいること。
「聞いて」
涙声をこらえて言うけれど、
「……嫌。聞きたくないよ」
愛梨はかたくなに首を横に振る。
「時間がないの。ちゃんと愛梨に伝えたい」
「…………」
嗚咽を漏らしてうつむく愛梨に、私は言う。
「愛梨はいつも明るくて、大好きだったよ」
「お別れみたいなこと言わないで」
鼻声の愛梨。私も顔もひどい状態になっているんだろうな。
「これから先も元気でいてね。私がいなくなっても、笑っていて。愛梨が笑っていると私は幸せだから」
「笑えるわけないじゃん。無理だよぉ」
あああ、と声をあげて愛梨は泣いている。