いつか、眠りにつく日3

「うわあ」

 シロがうれしそうに窓辺に駆け寄った。

「すごい夕焼け! きれいだね」
「うん」

 自分の席に座ってみた。
 今でもまだ私の机なのかな……? 机のなかを見ようとして、やめた。
 これ以上心が疲れることはしたくなかった。

 生真面目な愛梨が委員会の仕事をしている日は、ここで終わるのを待つことがあった。
 夕焼けの美しさも知らずに、私はスマホのゲームばかりしていたっけ。

 先生みたいに教壇に立ったクロが、
「準備はいいか?」
 と聞くのでうなずいた。

「でも、愛梨と話をしている間に誰か入ってこないかな」
「いざとなればごまかせばいい。今は未練解消に集中しろ」

 そっけない言葉でも、今は反論する余裕なんてない。

 愛梨に会いたい。それだけだった。

 窓に両手を当てたまま、シロが「ねえねえ」と無邪気な笑顔で私を見た。

「愛梨ちゃんてどんな子なの? 友達?」
「中学のときからの友達。しっかり者でかわいいからクラスでも人気だよ」
「そうなんだー。ハチよりも仲がいいの?」
「ハチ……。ううん、ハチは姉弟みたいなものだし、また違う感じ。どっちと
も仲良しだったよ」

 へえ、とどんぐりみたいに目を丸くしたシロが、
「七海ちゃんも人気でしょ」
 質問を重ねた。

「どうだろう? 私は楽しかったけどね」

 愛梨には現在進行形、私には過去だった日々。
 これからも毎日が続く愛梨と、あの日に終わった私。
 ああ、胸のなかがモヤモヤしている。

 嫌な感情が大きくならないように我慢していると、
「来たぞ」
 クロが短く言った。

 聞こえる。愛梨独特のパタンパタンとした足音が近づいてくる。
 愛梨は驚くだろうな……。
 叫んで逃げてしまうかもしれない。緊張するなか、ついに扉が開かれた。
 ショートカットの髪を右手でさわりながら、愛梨が教室に入ってきた。
 体がほのかに金色に光っている。

「愛梨……」

 つぶやく私に、愛梨はピタリと足を止めた。そして、私のほうをゆっくりと見た。

「え、七海……?」

 口をぽかんと開けた愛梨が次に作った表情は、意外にも満面の笑みだった。

「えー、ほんとに、ほんとに!?」

 叫びながら駆けてきたかと思うと、私の両手をガシッと握った。

「すごいサプライズ! なにこれ。もう驚かせないでよ」
「あ……あの」
「もう元気になったんだね。すごくうれしい!」

 体ぜんぶでうれしさを表現してから、愛梨はハッとしたように表情を止めた。そして、ゆるゆるとつないだ手を見おろす。

「あれ……なんで?」

 ようやく現状を理解したのだろう、気弱になる声に私は「ごめん」と伝えた。

「私、死んじゃったみたいなんだ」
「え……やめてよ」

 はは、と笑った愛梨だけど、すぐにキュッと口を閉じてしまう。
 自分でもわかる。
 つないだ手に温度がなく、体の輪郭もなんだかぼやけているから。

「嘘だよね」

 尋ねる愛梨は、きっとこれが本当のことだってわかっている。わかっていても受け入れたくないんだ。私も同じだよ。