「うわあ」
シロがうれしそうに窓辺に駆け寄った。
「すごい夕焼け! きれいだね」
「うん」
自分の席に座ってみた。
今でもまだ私の机なのかな……? 机のなかを見ようとして、やめた。
これ以上心が疲れることはしたくなかった。
生真面目な愛梨が委員会の仕事をしている日は、ここで終わるのを待つことがあった。
夕焼けの美しさも知らずに、私はスマホのゲームばかりしていたっけ。
先生みたいに教壇に立ったクロが、
「準備はいいか?」
と聞くのでうなずいた。
「でも、愛梨と話をしている間に誰か入ってこないかな」
「いざとなればごまかせばいい。今は未練解消に集中しろ」
そっけない言葉でも、今は反論する余裕なんてない。
愛梨に会いたい。それだけだった。
窓に両手を当てたまま、シロが「ねえねえ」と無邪気な笑顔で私を見た。
「愛梨ちゃんてどんな子なの? 友達?」
「中学のときからの友達。しっかり者でかわいいからクラスでも人気だよ」
「そうなんだー。ハチよりも仲がいいの?」
「ハチ……。ううん、ハチは姉弟みたいなものだし、また違う感じ。どっちと
も仲良しだったよ」
へえ、とどんぐりみたいに目を丸くしたシロが、
「七海ちゃんも人気でしょ」
質問を重ねた。
「どうだろう? 私は楽しかったけどね」
愛梨には現在進行形、私には過去だった日々。
これからも毎日が続く愛梨と、あの日に終わった私。
ああ、胸のなかがモヤモヤしている。
嫌な感情が大きくならないように我慢していると、
「来たぞ」
クロが短く言った。
聞こえる。愛梨独特のパタンパタンとした足音が近づいてくる。
愛梨は驚くだろうな……。
叫んで逃げてしまうかもしれない。緊張するなか、ついに扉が開かれた。
ショートカットの髪を右手でさわりながら、愛梨が教室に入ってきた。
体がほのかに金色に光っている。
「愛梨……」
つぶやく私に、愛梨はピタリと足を止めた。そして、私のほうをゆっくりと見た。
「え、七海……?」
口をぽかんと開けた愛梨が次に作った表情は、意外にも満面の笑みだった。
「えー、ほんとに、ほんとに!?」
叫びながら駆けてきたかと思うと、私の両手をガシッと握った。
「すごいサプライズ! なにこれ。もう驚かせないでよ」
「あ……あの」
「もう元気になったんだね。すごくうれしい!」
体ぜんぶでうれしさを表現してから、愛梨はハッとしたように表情を止めた。そして、ゆるゆるとつないだ手を見おろす。
「あれ……なんで?」
ようやく現状を理解したのだろう、気弱になる声に私は「ごめん」と伝えた。
「私、死んじゃったみたいなんだ」
「え……やめてよ」
はは、と笑った愛梨だけど、すぐにキュッと口を閉じてしまう。
自分でもわかる。
つないだ手に温度がなく、体の輪郭もなんだかぼやけているから。
「嘘だよね」
尋ねる愛梨は、きっとこれが本当のことだってわかっている。わかっていても受け入れたくないんだ。私も同じだよ。
シロがうれしそうに窓辺に駆け寄った。
「すごい夕焼け! きれいだね」
「うん」
自分の席に座ってみた。
今でもまだ私の机なのかな……? 机のなかを見ようとして、やめた。
これ以上心が疲れることはしたくなかった。
生真面目な愛梨が委員会の仕事をしている日は、ここで終わるのを待つことがあった。
夕焼けの美しさも知らずに、私はスマホのゲームばかりしていたっけ。
先生みたいに教壇に立ったクロが、
「準備はいいか?」
と聞くのでうなずいた。
「でも、愛梨と話をしている間に誰か入ってこないかな」
「いざとなればごまかせばいい。今は未練解消に集中しろ」
そっけない言葉でも、今は反論する余裕なんてない。
愛梨に会いたい。それだけだった。
窓に両手を当てたまま、シロが「ねえねえ」と無邪気な笑顔で私を見た。
「愛梨ちゃんてどんな子なの? 友達?」
「中学のときからの友達。しっかり者でかわいいからクラスでも人気だよ」
「そうなんだー。ハチよりも仲がいいの?」
「ハチ……。ううん、ハチは姉弟みたいなものだし、また違う感じ。どっちと
も仲良しだったよ」
へえ、とどんぐりみたいに目を丸くしたシロが、
「七海ちゃんも人気でしょ」
質問を重ねた。
「どうだろう? 私は楽しかったけどね」
愛梨には現在進行形、私には過去だった日々。
これからも毎日が続く愛梨と、あの日に終わった私。
ああ、胸のなかがモヤモヤしている。
嫌な感情が大きくならないように我慢していると、
「来たぞ」
クロが短く言った。
聞こえる。愛梨独特のパタンパタンとした足音が近づいてくる。
愛梨は驚くだろうな……。
叫んで逃げてしまうかもしれない。緊張するなか、ついに扉が開かれた。
ショートカットの髪を右手でさわりながら、愛梨が教室に入ってきた。
体がほのかに金色に光っている。
「愛梨……」
つぶやく私に、愛梨はピタリと足を止めた。そして、私のほうをゆっくりと見た。
「え、七海……?」
口をぽかんと開けた愛梨が次に作った表情は、意外にも満面の笑みだった。
「えー、ほんとに、ほんとに!?」
叫びながら駆けてきたかと思うと、私の両手をガシッと握った。
「すごいサプライズ! なにこれ。もう驚かせないでよ」
「あ……あの」
「もう元気になったんだね。すごくうれしい!」
体ぜんぶでうれしさを表現してから、愛梨はハッとしたように表情を止めた。そして、ゆるゆるとつないだ手を見おろす。
「あれ……なんで?」
ようやく現状を理解したのだろう、気弱になる声に私は「ごめん」と伝えた。
「私、死んじゃったみたいなんだ」
「え……やめてよ」
はは、と笑った愛梨だけど、すぐにキュッと口を閉じてしまう。
自分でもわかる。
つないだ手に温度がなく、体の輪郭もなんだかぼやけているから。
「嘘だよね」
尋ねる愛梨は、きっとこれが本当のことだってわかっている。わかっていても受け入れたくないんだ。私も同じだよ。