地面が揺れている。
横に縦に前後に……違う、私の体が勝手に動いているんだ。
これは……地震!?
深い眠りから無理やり引きずり出されるように目を開けると、
「七海ぢゃん! 起ぎだ! グロさん起ぎだよぉ!」
滝かと思うほどの涙を流したシロの顔がアップで映った。
「ひゃあ、近い!」
叫ぶ私を、シロは強引に抱き起こしてくる。体中が痛い。
「あれ……?」
窓の外が燃えている。
地震じゃなく火事だったのかと思ったけれど、すぐに夕焼けの朱色だと脳が認識した。
「ほんと、よかった。このまま目覚めないかと思ったよぉ」
白服の袖で涙を拭うシロを見ているうちに、頭が少しずつ目覚めていくのがわかった。
いつの間にか深く眠っていたみたい。にしても、シロは少しオーバーだ。
「ちょっと寝てただけじゃん。もう起きなきゃね」
よいしょ、と床に手をつくけれど、そのままペタンと倒れてしまった。軟体動物になったみたいに力が入らない。
倒れた床の先に、黒い靴が見えた。
「げ、クロ……」
「寝ぼすけ。よくこんなところで眠れたもんだな」
顔をあげると、照明を背にしたクロはまるで影絵みたいに見えた。
「そんな言いかたないでしょう。教室がパニックにならないように時間調整していたんだから。ね?」
シロに同意を求めるけれど、彼はまだ感動の真っ最中らしく「ううう」と泣いている。
なんとか起きあがり、ベッドに腰をおろすと、ようやくクロの顔がちゃんと見えた。あれ、ひょっとして怒っている?
「時間がない。すぐに未練解消をしろ」
「わかってるって」
不機嫌という感情には感染力がある。
寝起きから嫌な言いかたをされるとさすがにおもしろくない。
ようやく涙が収まったのか、シロが「すぐにやりましょう」とクロに同意を示した。
時計を見ると午後五時を過ぎたところ。ちょっと寝すぎたとは思うけれど、最悪の場合、愛梨の家まで行けばいいだけの話。
立ちあがると、まだふらふらと不安定に体が揺れた。でも、さっきまでの眠気や疲れはすっかり解消したみたい。
「すっきりしたー」
空気を和まそうと口にすると、クロがバカにしたように笑った。
「そりゃ、三日間も寝てたらそうなるな」
「は? 三日?」
なにそれ、と言いかけて口を閉じる。
それは壁にかかっている日めくりカレンダーが四月二十三日を表示していたから。
「嘘……。私、そんなに寝てたの?」
「いびきかいて寝てたぞ」
バカにしたように言ってから、クロは首をかしげた。
「未練解消をする人間には体力がない。が、お前ほどないやつは久しぶりだ」
「三日も……」
まだショックから立ち直れない。クロが未練解消を急がせたのもわかる気がする。
ちょっと行動しては眠ってしまうなんて、これじゃあ永遠にゴールにたどり着けないすごろくみたいなものだ。
もう一度カレンダーを見て気づく。明日は土曜日だ。
「すぐにやるから」
立ちあがるとさっきよりも体は安定を取り戻している。愛梨の家に急ごうと
する私の肩をクロがつかんだ。
「城田愛梨は、まだ学校にいる。なんとか、っていう委員会の仕事をしている」
「環境整備委員会」
勝手に口がそう話し、彼女が備品をチェックしている姿が思い出された。
なつかしい……。
ああ、会いたくてたまらない。
廊下に出ると、不思議と気持ちが落ち着いているのがわかった。
校舎の階段をのぼり、教室へ。
最後に残っていたクラスメイトたちが、うしろの扉からにぎやかに帰っていくところだった。
横に縦に前後に……違う、私の体が勝手に動いているんだ。
これは……地震!?
深い眠りから無理やり引きずり出されるように目を開けると、
「七海ぢゃん! 起ぎだ! グロさん起ぎだよぉ!」
滝かと思うほどの涙を流したシロの顔がアップで映った。
「ひゃあ、近い!」
叫ぶ私を、シロは強引に抱き起こしてくる。体中が痛い。
「あれ……?」
窓の外が燃えている。
地震じゃなく火事だったのかと思ったけれど、すぐに夕焼けの朱色だと脳が認識した。
「ほんと、よかった。このまま目覚めないかと思ったよぉ」
白服の袖で涙を拭うシロを見ているうちに、頭が少しずつ目覚めていくのがわかった。
いつの間にか深く眠っていたみたい。にしても、シロは少しオーバーだ。
「ちょっと寝てただけじゃん。もう起きなきゃね」
よいしょ、と床に手をつくけれど、そのままペタンと倒れてしまった。軟体動物になったみたいに力が入らない。
倒れた床の先に、黒い靴が見えた。
「げ、クロ……」
「寝ぼすけ。よくこんなところで眠れたもんだな」
顔をあげると、照明を背にしたクロはまるで影絵みたいに見えた。
「そんな言いかたないでしょう。教室がパニックにならないように時間調整していたんだから。ね?」
シロに同意を求めるけれど、彼はまだ感動の真っ最中らしく「ううう」と泣いている。
なんとか起きあがり、ベッドに腰をおろすと、ようやくクロの顔がちゃんと見えた。あれ、ひょっとして怒っている?
「時間がない。すぐに未練解消をしろ」
「わかってるって」
不機嫌という感情には感染力がある。
寝起きから嫌な言いかたをされるとさすがにおもしろくない。
ようやく涙が収まったのか、シロが「すぐにやりましょう」とクロに同意を示した。
時計を見ると午後五時を過ぎたところ。ちょっと寝すぎたとは思うけれど、最悪の場合、愛梨の家まで行けばいいだけの話。
立ちあがると、まだふらふらと不安定に体が揺れた。でも、さっきまでの眠気や疲れはすっかり解消したみたい。
「すっきりしたー」
空気を和まそうと口にすると、クロがバカにしたように笑った。
「そりゃ、三日間も寝てたらそうなるな」
「は? 三日?」
なにそれ、と言いかけて口を閉じる。
それは壁にかかっている日めくりカレンダーが四月二十三日を表示していたから。
「嘘……。私、そんなに寝てたの?」
「いびきかいて寝てたぞ」
バカにしたように言ってから、クロは首をかしげた。
「未練解消をする人間には体力がない。が、お前ほどないやつは久しぶりだ」
「三日も……」
まだショックから立ち直れない。クロが未練解消を急がせたのもわかる気がする。
ちょっと行動しては眠ってしまうなんて、これじゃあ永遠にゴールにたどり着けないすごろくみたいなものだ。
もう一度カレンダーを見て気づく。明日は土曜日だ。
「すぐにやるから」
立ちあがるとさっきよりも体は安定を取り戻している。愛梨の家に急ごうと
する私の肩をクロがつかんだ。
「城田愛梨は、まだ学校にいる。なんとか、っていう委員会の仕事をしている」
「環境整備委員会」
勝手に口がそう話し、彼女が備品をチェックしている姿が思い出された。
なつかしい……。
ああ、会いたくてたまらない。
廊下に出ると、不思議と気持ちが落ち着いているのがわかった。
校舎の階段をのぼり、教室へ。
最後に残っていたクラスメイトたちが、うしろの扉からにぎやかに帰っていくところだった。