「感情が不安定になっているみたいだな」
「そんなこと……ないよ」

 言葉にするそばからわかる。そんなことある。
 また文句を言われるかと思ったけれど、クロは空を読むようにあごをあげて目を細めた。

「みんなそうだ」
「みんな?」
「お前くらいの女子は、家に戻れば不安定になる。親に会えたならなおさら苦しくなるだろう。俺にはなんにもしてやれない。ただ、泣くのを見ているだけだ」

 どこかさみしげに聞こえた気がした。

「クロが担当した人で、そういう子がいたの?」
「たいていの人間は、自分が死んだことを理解するとすぐに未練解消をしだす。けれど、高校生ってのはなにかと理由をつけて逃げがちだ。さらに、両親が未練解消の相手でないことも多い。外の世界にばかり興味を持つ年ごろなんだろうな」

 心当たりがないわけじゃない。死んでしまってからいくら会いたいと願っても、もう遅いんだ……。

「そういう子も、最後は未練解消ができたの?」
「ああ、なんとかな」

 そこでクロは思い出したように「あ」と言った。

「そいつらも俺のことをクロって呼んでいたっけ」
「じゃあ、間違いじゃなかったんだ」
「迷惑な話だけどな」

 ちっとも迷惑じゃなさそうにクロは薄くほほ笑んでいる。
 なんだか少し、またクロに気持ちを落ち着かせてもらったみたい。
 ハチの頭をもう一度なでてから、立ちあがる。

「ごめんね。ちゃんと未練解消するから」
「当たり前だ。ほら、行くぞ」

 プイと出ていく背中に「はーい」と答えた。

 もう口から白い息はこぼれていなかった。