さっきから私はシロを無視し続けている。

 あからさまな態度で体ごとそっぽを向いているというのに、それに気づかないのか、シロは一生懸命という言葉がピッタリなほど説得をしてくる。

「七海ちゃんの気持ちはわかるよ。でも、クロさんがそうしろって言うから仕方ないんだよ」

 聞く耳なんて持つものか。なによ、クロ、クロってそればかり。
 ため息をつき、見慣れぬ部屋を見回した。
 大きな窓と、間隔を開けて置かれたふたつのベッド。さわらずともわかる固すぎるシーツは白い無地。あとは、机と棚があるだけ。

 ううん、部屋なんかじゃない。
 ここは、校舎の一階にある保健室なのだから。

 何度考えてもやっぱり納得ができない。このまま黙っていたら、強制的にここにいさせられるかも。
 すう、と息を吸うとシロが口を閉じた。

「なんでここにいなくちゃいけないの? 寝るなら家のベッドのほうがいい。ほかの人たちが寝たベッドなんて使いたくない」
「そう言いながら、もう何日も寝こんでいたよね?」

 鋭いところをついてくるシロをギロッとにらむ。

「仕方ないでしょ。志穂さんと別れたあと、急に倒れちゃったんだから」

 またしてもふたりがかりで運ばれたらしい。
 だけど、保健室が拠点(きょてん)になるなんて聞いていない。

「霊力っていうのがあってね。七海ちゃんはまだ慣れていないから、すぐに消費してしまうみたい」
「もう治ったから帰りたい。ね、クロもいないし今だけならいいでしょ?」

 けれどシロはふわふわの髪を横に揺らす。残念そうに眉じりを下げ、悲しい目をしている。

「未練解消にはすごく霊力を使うから、学校内に未練があるかどうかがわかるまではここを拠点にしたほうがいいんだって。それに、倒れてもここなら安心だしね。クロさんの言う通りにしたほうがいいと思う」

 信じ切っているような純粋な目がまぶしい。

「シロって、まるでクロの犬みたい」
「犬?」

 意味がわからない、と首をかしげるところまでそっくり。

「クロの言うことはなんでも聞くって感じ。上司なら仕方ないけどね。でも、あの無愛想な人が自分の上司だったらって、考えるだけでゾッとしちゃう」

 ようやく理解したのか、あははとシロは丸く笑った。

「たしかにおっかないところはあるけどさ、ああ見えてやさしいところもあるんだよ」
「感情なんて捨てた、って豪語(ごうご)してたのに? あー、もうどうでもいいから家に帰りたいよ」

 丸椅子に腰をおろすと、ギイとすごい音で悲鳴をあげた。

「まあまあ。とにかく学校内に未練がなければ、また別の場所に移動するわけだしさ」