「なあ、七海(ななみ)

 男性の声に、信じられない思いで隣を見た。

「え……? なんで私の名前を知ってる、の?」

 感情の主な成分は、怒りよりも恐怖へと変わっている。
 逃げようとしても、男性の瞳に(しば)りつけられたみたいに動けない。
 真っ暗な瞳は、黒よりも果てしなく濃い色でブラックホールのよう。

「思い出せ」

 低い声がそう命令した。

「思い出す……ってなにを?」
「ぜんぶだ」
「ぜんぶ……」

 くり返すことしかできない私に、男性はすっと息を吸う。
 そうして、はっきりとした口調で告げた。

「亡くなったのは祖母じゃない。雨宮(あまみや)七海、お前なんだよ」

 と。