傘を両手に持ったまま奏太さんは今目覚めたかのように瞬きをくり返している。
「奏太さん、大丈夫ですか?」
声をかけるけれど、奏太さんはじっと傘を見つめたまま。
「七海ちゃん、もう奏太さんから姿が見えなくなっているみたい」
シロが奏太さんの前で手を振って合図を送っている。
「え、彼は霊感があるんでしょう? ね?」
声をかけても奏太さんは聞こえていないのか、ゆっくりと桜の木を見あげた。
いつの間にか雨はあがっていて、春の日差しが草木をキラキラ光らせている。
「クロさんが霊感まで取っていったのかもね」
シロの言うことはあながち間違いではない気がした。
奏太さんはもう葉桜になった木を愛おしそうに眺め、つーっと涙をこぼした。
「あれ、なんで泣いてるんだ」
自嘲気味に笑い、去っていく背中を見送った。
未練解消のときの記憶は消えてしまう、と言ってたっけ……。
会えない志穂さんのことを思い続けるより、奏太さんは彼らしく生きてほしい。
いつか、彼の命が終わったときに、もう一度志穂さんのことを思い出すのだろう。
「奏太さん、がんばってね!」
声をかける。
奏太さんの生きていく道が幸せになりますように。そして、いつかまた志穂さんに会えますように。
「でも、よかった。志穂さんがきちんと未練解消ができて」
ホッとする私に、シロが「うん」とうなずく。
「次は七海ちゃんが未練解消をする番だね」
「そうだね」
うなずきながらも、果たして自分にできるのかと不安になる。
志穂さんの悲しみと勇気を知り、自分もがんばろうと思えた。
だけど、未練の内容を知ることが怖いと思う私がいる。
私はきっと、泣き虫でも笑い虫でもなく、弱虫なんだ。
「奏太さん、大丈夫ですか?」
声をかけるけれど、奏太さんはじっと傘を見つめたまま。
「七海ちゃん、もう奏太さんから姿が見えなくなっているみたい」
シロが奏太さんの前で手を振って合図を送っている。
「え、彼は霊感があるんでしょう? ね?」
声をかけても奏太さんは聞こえていないのか、ゆっくりと桜の木を見あげた。
いつの間にか雨はあがっていて、春の日差しが草木をキラキラ光らせている。
「クロさんが霊感まで取っていったのかもね」
シロの言うことはあながち間違いではない気がした。
奏太さんはもう葉桜になった木を愛おしそうに眺め、つーっと涙をこぼした。
「あれ、なんで泣いてるんだ」
自嘲気味に笑い、去っていく背中を見送った。
未練解消のときの記憶は消えてしまう、と言ってたっけ……。
会えない志穂さんのことを思い続けるより、奏太さんは彼らしく生きてほしい。
いつか、彼の命が終わったときに、もう一度志穂さんのことを思い出すのだろう。
「奏太さん、がんばってね!」
声をかける。
奏太さんの生きていく道が幸せになりますように。そして、いつかまた志穂さんに会えますように。
「でも、よかった。志穂さんがきちんと未練解消ができて」
ホッとする私に、シロが「うん」とうなずく。
「次は七海ちゃんが未練解消をする番だね」
「そうだね」
うなずきながらも、果たして自分にできるのかと不安になる。
志穂さんの悲しみと勇気を知り、自分もがんばろうと思えた。
だけど、未練の内容を知ることが怖いと思う私がいる。
私はきっと、泣き虫でも笑い虫でもなく、弱虫なんだ。