「へえ、高校ってこういうところなんだね!」

 さっきからシロは興奮してあっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。
 校舎を二階へあがると、いちばん奥にあるのが私の教室だ。この春から二年一組になったんだ。
 今日が四月……十日。ということは、二年生になってすぐに私は 死んじゃったんだな……。

 教室は朝の光で満たされていて、まだまばらに登校してきた生徒が楽しそうにはしゃいでいた。このなかに、私が仲良くしていた子がいるのかな……。

 自分の席を思い出して座る。たしか、ここだったはず。
 
 ハチは興味深そうに教壇(きょうだん)に立ったり黒板にチョークで文字を書いたりしている。私にはよくわからない象形(しょうけい)文字みたいなものだった。ていうか、ただの落書きに見える。

 クラスメイトたちは顔を思い出せる子もいれば、まったく思い出せない子もいた。

「みんな楽しそう……」

 私が死んでも続く毎日。

 彼らにとって私の死は、なんの影響も与えていないように思える。いつか、生きていたことすら忘れられるんだ。
 ざぶんと悲しみの波が襲ってきた。ざわざわする胸に手を当てて立ちあがった。気づいたシロが駆けてくる。

「七海ちゃん、どうしたの?」
「なんか、気分が悪くって……。まだ時間も早いし、少し外の風に当たってきてもいい?」
「もちろん。じゃあさ、屋上に行こうよ!」

 まるで子供のように目をキラキラさせるシロに「無理だよ」と答える。

「屋上には鍵がかかってて、誰も入れないの」
「大丈夫だよ。僕に任せて」

 言うやいなや、シロはもう教室の扉に向かっていった。しょうがない、と立ちあがる。
 誰も私を見ない。誰も私がここにいることを知らない。

 またひとつ、さみしくなった。