「今説明したことだろうが。お前がやった行動はぜんぶこっちの世界にいる人間には見えないんだよ。犬と散歩しようが、関係ない」

 あ、そっか……と納得してから気づく。

「あれ、今日はシロはいないの?」
「どうせ寝坊だろ。新人のくせに情けない」
「私のせいだよ。駄々をこねて夜中まで引っ張りまわしたんだから。怒らないであげてね」

 お願いをすると、クロは意外そうに目を丸くした。
 本当に驚いているような顔をしていて、なにかヘンなことを言ったのかと心配になった。
 やがてクロは静かに首をかしげた。

「七海は昔からそうなのか?」
「どういうこと?」
「自分のことより人のことばっか心配しているだろ? 疲れないのか?」

 ああ、そういうことか。

「昔からそうだったし、別に疲れないよ」

 にっこり笑って言うと、クロはもっと不機嫌な表情になってしまう。

「明るい顔でごまかして、自分の言いたいことは言えない。そんなんだから、未練が残るんだよ」
「そんな言いかたひどい。クロみたいに『俺は間違ってない、正しい』って人ばかりだと、そっちのほうが大変そうじゃん」
「俺はそんなこと、一度たりとも言ったことがない」
「はいはい」

 軽く答えてからハチの前で膝をかがめる。

「とりあえず、散歩に行こっか」

 ハチは理解したのか、激しく尻尾を振ってよろこびを表現した。

 ――明るい声でごまかして、自分の言いたいことは言えない。

 クロに言われた言葉が頭のなかで回っている。
 そんなことわかってる。ずっと前からわかっているよ。