目が覚めると同時に、幸せな感覚に包まれることがある。
 それは遠足の朝だったり、家族旅行中だったり、夏休み初日だったり。

 今朝目を覚ました瞬間にも同じような気持ちがぶわっとこみあがった。

「夢……だったんだ」

 悪夢が終わったんだ、と思うと同時に安堵のため息がこぼれた。
 そうだよね。私が死ぬなんてありえないよ。ヘンな夢を見たわりには、心も体もすっきりしている。

 昨夜は制服のまま寝てしまったみたい。薄暗い部屋で時計を確認すると、まだ四時半すぎ。窓からの景色は夜のままだ。

 一階へおりると当然のことながらお父さんとお母さんは起きていなかった。
 それにしても変な夢を見たな……。
 クロとシロが出てきて、私が死んだと告げる夢。
 やけにリアルだけど、あまりにも非現実な設定の夢だった。

 リビングの電気をつけると、まぶしくて目がクラクラした。
 でも、昨日あったはずの頭痛はもうなかった。
 体調が悪いせいで悪夢を見てしまったのかも。なんにしても幸せな気持ちになれたからよしとしよう。

 あれ……。頭痛は夢のなかの出来事だったっけ?

 雨戸を開けると、庭にいるハチが私を見つけてうれしそうに尻尾を振っていた。

「おはよう、ハチ」

 外用の草履(ぞうり)を履いてハチのもとへ向かおうとして、
「え……」
 足を止めた。

 ハチの茶色の体から金色の光が出ている。
 駆け寄って確認するけれど、窓から()れる照明よりもキラキラした光が、ハチの体から生まれている。

 色は違うけれど、まるであの公園の女の子みたい……。

 じゃれてくるハチの頭を無意識になでながら、昨日の出来事が夢じゃなかったことを知る。
 たしかに感じていた幸せな気持ちは、波が引くように去っていく。

「ハチ……私は、死んだの?」
「いい加減慣れろ」
「えええっ」

 一瞬ハチがしゃべったのかと思ったけれど、そんなはずがない。振り向くといつの間に来たのか、クロが悠々(ゆうゆう)(へい)の上に腰かけていた。

 夢じゃなかったんだ……。

「そんな……やっぱり私は死んだの?」

 ショックのあまりへなへなと庭に座りこんでしまう。

「最初の二、三日はみんな状況を理解できずにパニックになる。なに、すぐに慣れるさ」

 そんなこと言われても慣れたくなんかない。
 ハチはまだ尻尾を振って遊びたそうにしている。

「やっぱりハチには私が見えるんだね」
「未練解消の相手なんだろうな」
「動物が相手ってこともあるの?」
「まあな」