「うえー、怖い怖い」

 さっきからシロはずっとおびえた声を出している。
 図書室はあまりにも暗かった。本を日に当てないように、遮光性(しゃこうせい)の高いカーテンを使っているらしく、まさしく暗闇。手探りでスイッチを探すけれどなかなか見つからない。

「七海ちゃん。僕、無理だよ。幽霊が出そう!」

 私も似たようなものなんだけど、そんなこと言ったら逃げちゃうかもしれない。

「待って。すぐに電気つけるから」

 なんとか電気をつけると、今度はまぶしさに目がやられそうになる。
 シロは? と見ると、壁に向かってうずくまって震えていた。
 ぎゅーっと目をつむって叱られた子犬みたい。

「電気ついたよ」
「え? あ、ほんとだ。でも、やっぱりなんか怖いね」
「すぐに調べるから待ってて」

 目的のパソコンは図書室のカウンター横に置かれている。電源を入れると、ぶおんという音に続いて、ディスプレイが灯った。

「これで調べられるの?」
「うん。かなり昔の新聞のデータも入っているんだって。私が生まれた日のもあるんだよ」
「へえー」

 さっきまでの恐怖はもうないらしく、シロは物珍しげに床にしゃがんでディスプレイを見あげている。
 ようやく検索画面が表示され、そこに先月の八日の日付を打ちこんだ。

 砂時計マークがくるくる回ったあと、画面に新聞が表示された。

「あった」

 やっと発見できたうれしさで、シロを見るけれど、
「そう」
 意外にも冷静な声が返ってきた。
 まだピンときていないのかもしれない。

 マウスを操作し、一面から順番に見ていく。けれど、隅々まで見ても、あの事故については書かれていなかった。

「どうしよう、ないよ」

 泣きそうになる私に、シロが「あ」と手を打った。

「亡くなった翌日の新聞は? だって事故の当日には記事は載らないでしょう?」
「ほんとだ」

 ちょっと焦りが先行しすぎていたみたい。改めて翌日の日付の新聞を開く。
 政治関係のニュース、爆発事故のニュースなどが載っているけれど、どれも私がもうこの世から消えたあとのことなんだ……。

 マウスを操作する手が止まる。

「あ、これ……?」

 十二面には地域版と記されており、この地域のニュースが載っている。その左下に【高岡(たかおか)橋二丁目交差点で人身事故】という記事を見つけた。
 心臓が一回だけ高く跳ね、思わず目を閉じていた。

「大丈夫?」

 シロの声にうなずく。本当は大丈夫なんかじゃなかった。
 自分が死んだときのことを記事として読むのが怖かった。

 だけど、私には本当の未練を見つけるという使命があるから。

「大丈夫。ちゃんと読むから」

 ゆっくり目を開けると、私は記事を目で追った。