「は、はい。分かりました」

 私は、慌てて返事をする。
もちろんうんざりしながらだが……。

 それからの課長は、参考書を読みまくり、いいと思うやり方を実戦させられる。
 マタニティーのためのマッサージ。
マタニティーのための正しい栄養管理から料理レシピ。
 マタニティー向きの癒しの音楽などなど。

 こんなに育児や妊娠に前向きな父親は、なかなかいないたろう。
 ただし限度を越さなかったらの話だが……。

「ハァッ……何だか疲れた」

 お店の事務所で、ぐったりとしていた。
私やお腹の赤ちゃんを気にかけて心配してくれるのは、凄く嬉しい。嬉しいけど……。

 たびたび手を抜いたり、サボると叱られる。
身体に悪いと思う行動をするものなら
「お前は、母親になる自覚があるのか!?」と言われた。
あ、もちろん。普段は、優しいのよ?

 つわりが酷い日なんて代わりに家事をしてくれたり、楽になる方法を調べてくれた。
 仕事も終わると真っ直ぐ帰ってくれて買い物などしてくれるし。気持ちが悪いなら背中を擦ってくれる。
 なのに……あの完璧主義の性格が邪魔をする。

 するとデスクに温かい飲み物を差し出してくれる手が現れる。見てみると裕太君だった。

「どうぞ。ノンカフェインなので、お腹の赤ちゃんにも優しいと思いますよ?」

 ニコッと笑顔で言ってくれた。
て、天使が舞い降りてきたわ……。

「ありがとう……裕太君」

「どういたしまして。
何だかお疲れ様ですね。つわりが酷いんですか?」

 私を心配して言ってくれる。
課長の甥っ子である裕太君に話していいのか迷ったけど、聞いてほしくて事情を話した。
 するとアハハッと笑われる。