たしかにここはもともと山や森だったところを削って作った住宅地。

 しかし神社とは?

 看護師になってから仕事と勉強に明け暮れ、近所を散歩したこともない。バス停とコンビニを知っていれば十分生活できたからだ。

「動物病院より、そこがいいのね?」

 確認すると、たぬきは渾身の力を振り絞ったようにうなずき、動かなくなった。

「わかった」

 とはいえ、目的地の場所もわからない。スマホで近くの神社を検索しようと考えた瞬間、目の前に木の葉がひらりひらりと舞い落ちた。

 木の葉を視線でとらえた刹那、それは緑色の矢印に変わった。

「は!?」

 唐突すぎて驚いた。ゲーム画面のように、大きな矢印が宙に浮いている。

「もしかして、これが案内してくれるのかな」

 矢印が指す方向を向いて歩き出すと、浮いていた矢印が高速で動き出した。早く来いと言っているように。

「……ええい、ままよ!」

 不思議な出来事が重なり、脳の許容量が限界を超えた。

 不思議なたぬきを助けるためには、不思議な現象を受け入れ、ついていくしかなさそうだ。

 私はたぬきを抱きかかえ、矢印が指す方向に走り出した。