「うーん……。動物病院に連れて行こう!」
迷ったけど、そう決めた。今目の前にいるのはたぬきなのだから、動物病院が妥当だろう。
見たところ、まだ息がある。お腹が呼吸で上下している。
傷口を抑えたまま、たぬきを抱きかかえようとしたとき、誰かが言った。
「お願い……狐守さんのところに連れて行って……」
こもりさん? 誰それ?
顔を上げる。振り返る。しかし近くには誰もいない。
首を傾げた私に、誰かはもう一度言った。
「狐守さんは……神社の裏……森の……中……」
たぬきの口がパクパク動いているのが、視界の端っこに見えた。
「まさか」
子供みたいな幼い響きの、小さな声だった。しかし近くに人はいない。だとしたら。
「キミが話したの?」
たぬきはぐったりしている。ハアハアと荒い息をし、鳴き声も発さない。
信じられない思いでたぬきを見つめた結果、私は立ち上がった。
腕の中には、傷ついたたぬき。右手は止血のため、たぬきの血液で汚れていた。
「こもりさんね。森の中にいるのね」