大きな声を出して威嚇すると、少年はビクッと痩せた体を震わせ、こちらを見上げた。
黒く短い髪、浅黒い肌。まつ毛や眉毛が濃いせいか、目の周りがより黒っぽく見える。
「チッ」
諦めたのか、少年はエコバッグから手を離した。そして、風のような速さで横断歩道の方へ走っていく。
「ちょっと、ま……」
点滅信号が、赤く変わった。勢いがついた少年は止まらない。
青信号を横切る車が、少年の脇腹に衝突した。少年は宙に跳ね上がり、歩道まで転がった。すべてがスローモーションで見えた気がした。
「うわああああっ!」
我に帰り、少年に駆け寄る。はねた車はそのまま行ってしまった。なんということだ。
とにかく、助けなければ。
倒れた少年に駆け寄り、私は目を疑った。
「え……っ?」
歩道に転がっていたのは、少年ではなかった。茶色い、毛だらけの生き物。
「い、ぬ……?」
そっと寄り添い、しゃがみこむ。よく見ると、生き物の耳は丸っこく、手足は短い。そして目の周りには黒い模様があった。
「たぬき? あんた、たぬきだったの?」