「すみません……ちょっと今日は不思議なことがいっぱいで」
 頭が今日の出来事を処理しきれない。

「少年が私のお弁当をひったくろうとしたんです。叱ったら走って逃げて、車にはねられて。そうしたらたぬきに変身しちゃって……。しかもたぬきなのに、人間の言葉を話したんです」

 狐守兄弟は、驚く様子もなく私の不思議体験を真顔で聞いている。

「ここに連れてきてって頼まれたんですけど、あなたたちはいったい?」

 部屋の様子からも、ここがただの動物病院とは思えない。

「ここは……」

 お兄さんが口を開いた瞬間。

 ぐううううう。

 私のお腹の虫が鳴り響いた。

「うわっ、これはそのっ」

 そういえば、お弁当食べ損ねたんだった。猛烈にお腹が空いている。

 真っ赤になる私を見て、弟が堪え切れない様子でふきだした。

「あなたの食べ物はひっくり返って悲惨なことになっていました」

「ああ……」

 おそらく私のお弁当は、転んだときにぐちゃぐちゃになったのだろう。もしかしたら私の体の下敷きになったのかもしれない。