「あ、すみません。家主さんですか」
「いかにも」
「私は薬師寺実久瑠です。お邪魔してます」
私は布団から足を出し、彼の方に正座し直した。
「助けてくださったということは、私は行き倒れていたのでしょうか」
「そうなんです。あなたは森の中で倒れていたんですよ。おそらく、頭を打って気を失ったんでしょう。大したことはありません」
弟さんの方が愛想よく受け答える。お兄さんは腕を組んでむっつりとしていた。
「どうもありがとうございま……」
ずきんと右側頭部が痛んだ。手をやると、包帯の感触がした。頭を木にぶつけたとき、たんこぶができたらしい。
「意識が戻ったなら、早く帰るがいい。ここはお前のような者がいていい場所ではない」
「ちょっと、兄さん」
冷たく言い放つお兄さんは、話し方まで浮世離れしている。どうやら私は彼に歓迎されていないようだ。
「ご迷惑をおかけしました」
私だって、知らない家にゆっくりお世話になるつもりはない。