「あ……もう目覚めるよ、兄さん」

 耳に入ってきた誰かの声につられるように、まぶたが開いた。

 ぼやける視界が、瞬きをするたびに鮮明になっていく。

 そういえば、私……事故に遭ったたぬきを拾って、暗い森に入って……。

「そうだ、たぬき!」

 がばっと跳び起きる。首を左右に振ると、すぐ隣の布団にたぬきが寝かされていた。

 あちこちに包帯を巻かれた痛々しい姿ではあるけど、生きているみたい。呼吸が早いような気がするが、動物はこんなものなのかな。

 人間は表情がわかりやすいが、動物はそうではない。ずっと一緒に暮らしていれば気持ちを感じる場合もあるだろうけど、このたぬきと私は出会ったばかりだ。

 それにしても、たぬきを布団に寝かせるなんて、ここの主は変わってる。

 私は顔を上げ、周囲をぐるりと見回した。

 古い土壁と襖や障子に囲まれており、畳のいい香りがする。床の間には水墨画の掛け軸が飾ってあった。