矢印がくいくいとしなる。「早く行こうぜ」と言っているようだ。
「いやでも……ちょっと暗すぎやしない?」
スマホで道を照らそうにも、両手でたぬきを抱いているからムリ。
こんな暗い山道に入り込んで、不審者にでも遭ったらどうしてくれる。怖すぎるよ。
躊躇すると、腕がずんと重くなった。見下ろすと、ずっと痛みを堪えているようだったたぬきが、口を開けてだらんとしていた。
「あっ。ちょっと、頑張って。しっかりして!」
時間が経つほど、たぬきが助かる可能性は低くなる。
私は覚悟を決め、唇を引き結んだ。矢印が案内する方向へ、再び歩き出す。
スニーカーがざくざくと葉っぱや木の枝を踏む音がする。が、景色は全く見えない。真っ黒だ。