背負っているリュックの重量はそれほどでもないが、たぬきは重い。

 人間の赤ちゃんもずっと抱っこしていると肩や腕が張ってくる。

 体力に自信のある私も、片手にコンビニの袋をぶら下げたまま、たぬきを抱っこして走るのはしんどかった。

「はあ、はあ……せめて出勤前なら……」

 八時間しっかり働いてきたあとでこの運動は厳しい。日が暮れ、周囲もすっかり暗くなってきた。

 しかも謎の矢印が指し示すのは、「こんなところに道なんてあったっけ?」という細い通路ばかり。

 住宅の間を抜け、工場の駐車場を抜け、坂道を登り、まさにけもの道を通り、気がついたら森の入口にいた。

 自分が住む場所から見える高地に住宅街や幼稚園があるのは知っていた。が、これほど森と密接しているとは思わなかった。

 数歩いけば新しく建った住宅が見えてくる。

「こもりさん、意外に同じ町内だったりして……」

 はあはあと息を切らして、森を見上げる。

 とっぷりと日が暮れ、木々の葉が黒く見える。舗装されていない細い道があるようだけど、街灯がない。