「お願い薬師寺さん、契約延長して~!」

 とある総合病院の呼吸器内科病棟で、派遣看護師である私は看護師長に泣きつかれていた。

 看護師長は四十代半ばの女性。二十五歳の私は、「いやいやいや~」と曖昧に笑って逃げようとしている。

 冗談じゃない。働いてみてわかったけど、こんなに嫌な職場は初めてだった。これ以上契約を伸ばすなど、絶対に考えられない。

「すいません、私、結婚して遠くに行くんですっ。ではっ」

 しつこい師長を振り切り、病棟を出ていく。背後では、まだ働いている看護師がたくさんいた。

「あっ、実久瑠さん行っちゃう!」

「また来てね~!」

「お世話になりましたぁ」

 看護師は自分の仕事をしながら、口々にこっちに別れの言葉を投げかけてくれた。

「こちらこそ、お世話になりました!」

 私はみんなに手を振り、病棟を後にした。