事件が起きたのは、昨夜十七時。
 
 俺は社長を東郷グループの代表との会食場所まで送っていくために、駐車場に停めた車を会社のフロントロータリーまで移動させようとしていた。
 だが、なぜか会社のビルのフロント前に人だかりができている。
 ロータリーまで車で移動することは諦めて、側道に停めると、俺は様子を見るためにフロントのほうに近付いていった。
 
 人だかりの後ろから何が起きているのか覗こうとすると、俺の存在に気付いたひとりの社員が青褪めた顔で話し始めた。

「あ、専務。今、社長が刃物を持った男に刺されて……犯人の男は、取り押さえようとした警備員を振り払って逃げたんですけど……もしかすると元専務の和典さんだったんじゃないかって……」
「え……?」

 俺が絶句したとき、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
 
 駆けつけた救急隊員により、人だかりが散らされると、フロント前で血を流して倒れている社長の姿が見えた。
 救急隊員のひとりに呼びかけられた社長が、僅かに反応を示す。そのことにほっとしたのもつかの間、社長は救急車に乗せられて病院へと運ばれていった。