「心配しないで。和典(あいつ)が岡崎を怪我させた責任はちゃんととるつもりだから」
「どうやって?」

「明日にでもお見舞いに行くつもり。だって岡崎は、あたしのお義父(とう)さまだもの。ちゃーんと献身的に看病して、《和典をダメにした嫁》の汚名は返上するの。岡崎家の遺産相続権をぜーんぶあたしに譲渡したくなっちゃうくらいに」

 クスクスと笑う妹に呆れながらも、口角を引き上げる。
 きっとうまくやるんだろう。「アヤカ」なら。

「まぁ、ほどほどにな」
「お兄ちゃんもね」

 停めていた車の運転席のドアを開けると、その気配に気付いた妹が笑うのをやめた。

「そろそろ切ろうかな。あたし、お腹空いちゃった。またね、お兄ちゃん」

 奔放な妹の言葉に苦笑しながら、運転席に乗り込む。

「またな、アヤカ」

 ドアを閉じるのと同時に、俺たちの通話も切れた。



【完】