病院を出て、来院者用の駐車場に向かって歩いていると、スーツのポケットでスマホが鳴り始めた。
画面に表示されているのは、妹の名前だ。数秒それを見つめたあとに、俺は通話ボタンをタップした。
「もしもし……」
「お兄ちゃん、社長の様子はどうだった?」
「あぁ。俺の告白に、衝撃を受けていたみたいだよ。呆然として、抜け殻みたいな顔してた」
「そう。これで、お兄ちゃんの目的は果たせたね。きっと、お父さんとお母さんも天国で喜んでると思う」
「だといいけど…… 大変なのはこれからだよ。岡崎が父さんに不祥事の罪を被せたことを世間に公表すれば、山岡商事の信用はさらに下がる。俺は父さんのために、山岡商事の信頼を回復していかないといけない」
「そうだね。でも、お兄ちゃんならきっと大丈夫」
何の根拠もないことを言う妹の明るい声。
最近それが、母さんに似てきたような気がする。電話越しに聞くとなおさらだ。
俺は少し笑うと、スマホを持ち直して反対の耳に押し当てた。