和典に代わって俺が専務の職についた頃には、岡崎社長に対する不満の声とともに、山岡商事の立ち上げに携わった俺の父の噂が、ちらほらと耳に入ってくるようになった。
 そこで俺は、古くから山岡商事に勤めている社員たちのなかに、父の不祥事について疑問を抱く者がいるという情報を知り得た。

 専務として、岡崎社長に献身的に遣える。そんな素振りを見せながら、俺は古株の社員たちに取り入って話を聞き、昔の資料を徹底的に調べあげた。

 その結果、山岡商事で起きた取締役員による横領事件の古い資料が見つかった。でも会社の金を横領したのは、俺の父ではなかった。
 
 事件を起こしたのは、岡崎社長と親しい間柄にあった当時の専務。
 今はもう山岡商事から引退しているその男を庇うため。そして、共に取締役社長として名を連ねている俺の父を引きずり落として山岡商事を自分の手中に収めるため。岡崎社長は、俺の父に嘘の罪を被らせたのだ。


 父が命や会社とともに失った名誉を取り戻したい。

 真相を知った俺が思ったのは、ただそれだけだった。