父が仕事を失ってから、母は生活のために働こうとした。だが、それもなかなかうまくいかず。

 ある日俺と妹が学校から帰ってくると、両親は命を絶っていた。俺と妹への数えきれないほどの謝罪の言葉と、横領は事実無根だという訴えを手紙に残して。

 それから、俺と妹の生活は一変した。
 五つ下の妹とは別々に親戚の家に引き取られて、家族はバラバラになった。

 幸いにも、俺を引き取ってくれた親戚家族はとても優しい人たちだった。
「あいつが不祥事なんて起こすはずない」と、父のことを信じて、ひたすらに俺を励ましてくれた。
 そんな親戚家族に引き取ってもらえたから、俺は真実を突き止めたいと思うようになったのかもしれない。

 遺書に残っていた、無実の訴え。親戚家族の「父を信じる」という言葉。
 それによって、謝罪会見のときのやつれた父の顔ではなく、俺が幼い頃から知っているほうの父の顔を信じられるようになった。

 高校を出たらすぐに働こうと思っていた俺を、親戚家族は大学まで行かせてくれた。
 そのおかげもあって、就職活動中に数社から内定をもらえた。そのなかのひとつに、山岡商事も入っていた。
 
 正直難しいと思っていた山岡商事からの内定が出た段階で、俺の心は決まった。

 名字が変わっているとはいえ、いつ父のことが知られてしまうかわからない。そのことを心配する養親の反対を押し切って、俺は山岡商事への入社を決めた。