「五年前に和典があの女を連れてきたときに、あいつの本性を見抜いておくべきだった。三年前にあの女との結婚を決めたときも、もっと真剣に反対して阻止するべきだった。全てわたしの責任だ」

 声を震わせる社長の話を聞きながら、俺も足元に視線を落とす。

「そうですね。たしかに、結婚前にもっとよくお調べになるべきでした。子ども時代の『アヤカ』さんを引き取った養親の家柄がたとえ申し分なかったとしても、和典さんが強引に彼女との結婚を押し切ろうとしていたとしても、彼女の生家は調べておくべきだったと思います」
「そうだな。後悔している」

「まぁそれでも、社長に調べ切ることができたかはわかりませんが……」
「どういう意味だ、高森……」

 社長が怪訝そうに俺の名を呼ぶ。社長のおかげで、もう二十年ほど使ってきたその名前がだいぶしっくりくるようになった。
 下を向いたまま、そっとほくそ笑む。

「実は私も、『アヤカ』さんと同じで養子なんです。二十年前に実の両親を亡くして、『高森』の家に引き取られたので」
「二十年前……?」

 突然の俺の告白に、社長の声が警戒心で強張るのがわかる。だが、ここまで全く社長に警戒されずにきたことは奇跡だ。