口汚く罵ってくる相手の話を黙って聞いたあと、通話を保留にして、社長室の椅子にのけぞるように座る白髪混じりの男を振り返る。

「社長、お電話です」
「誰からだ?」
「ご子息の和典(かずのり)様からです」

 俺が遠慮がちにその名前を伝えると、社長があからさまに顔を顰めた。

「どうせ、また金を貸せと言ってるんだろう。わたしが携帯の着信を無視するから、ついに会社にまでかけてきたか。『お前に貸す金はない。二度とかけてくるな』と伝えてくれ」

「社長がそうおっしゃられるだろうと思い、既にお伝えしております。そうしましたら、ひどくお怒りになられて。『電話に出ないなら、自宅に火をつけるぞ』と」

「わかった。息子にはわたしが話をつける」

 社長はため息を吐くと、頭を抱えながらデスクの電話の受話器をあげた。

「和典、わたしだ」

 初めこそ冷静な態度を崩さないようにしていた社長だったが、通話が長引くにつれて眉間に皺が寄り、相手を罵倒するような言葉が飛び出し始めた。

「お前なんかに貸す金はない。二度とかけてくるな。これ以上金を要求するなら、縁を切る。法的な措置も考える。わかったな!」

 社長はドスのきいた声で捲し立てると、受話器を投げつけるように電話を切った。