「何か用事でもあるんですか?そもそも私はあなたのこと、今初めて見たのに。どうしてあなたは私の名前をご存じなんですか?」

「俺、音瀬。音瀬奏。」
「夜桜雪恵さんでしょ?!」

「ああ、まあ、そうですけど。」
「やっぱりそうだな。」

 彼はまるで私を知ってるかのように優しい表情になった。

「それで、いったい何の用なんですか?私忙しいんです。早くしてください。」

 私は一刻も早く彼を追い出すことが、私にとって、なによりも彼にとって最良の選択だからだ。

 でも彼はさっきと同じように笑顔で、全く動揺しない。

 そして彼は私と違って、真っ直ぐに私を見つめてる、私は彼と目を合わせる勇気がない。
 人と話すのはいつぶりだろうか。こんなに恐怖を感じることだったのか?

「そんなに怖がらなくてもいいよ。俺は何もしないよ。ただあなたと話してみたいと思ってここに来た。」
「まぁ確かに夜桜さんは俺のこと知らないから、怖がるのも当然かな。だって全然学校来ないでしょ?小学校の時からずっと引き籠りだって聞いたけど、一生そうやって一人で生きていくつもり?」

「あなたはその理由を知らないわけがないのに、なんでわざわざここに来るんですか?もっと自分の命を大事にしたほうがいいですよ。」
「そもそもあなたに私の何がわかるんだと言うんのですか?!」

 私だって普通の人として生活したいと強く願ってる。そう思わないわけない。なのに、彼はまるで私がこういう生活をしていることを責めているようだった。
 私は両手を強く握り、彼を睨んだ。
 

「ごめんごめん、許してよ。悪気があって言ったんじゃないよ。」
「俺らは同じクラスで俺はクラスメイト。夜桜さんがずっと学校を休んでたから気になって来たわけさ。」

 よく見ると確かに彼が着てる制服は私の家のクローゼットの中にあるものと同じだ。それでも私の家に来るなんでありえる?!

「許す?そんなことを言ったくせに?!」
「言葉は一度口から出ると、元には戻せないものって知ってる?覆水盆に返らずって言うように。」

 彼はさっきの笑顔を失い、緊張しているみたいだ。それでも私の怒りを収められない。

「本当にごめん!気に障ったなら、すまない。」
「そもそも最初からあなたと話すことなんて何もありませんから!もう帰っていただいてもよろしいですか?」
「さようなら!もう二度と来ないでください。あなたと話すことなんでないから。」
「ま...」

 私は引き戸を力いっぱい閉めた。もう彼の話は聞きたくない。彼の口は扉と共に閉じて声がしなくなった。私はリビングに戻り、ソファーの上で横に倒れた。
 彼がもう二度と来ないことを心の底から願っている。そもそも私たちは住む世界が違うから。

 人と出会う度に私の心は死んでいくようだ。それはとっても痛くて疲れること。何よりも、他人が自分との関係で傷づくこと、それが私をここにずっと縛り続けている理由だ。

 私との出会いは必ずひどい結末を迎えるから。