振り返ると、彼女はそこに立っていた。出かけるって言ってたのに、彼女は急に上に行っちゃったから、俺はソファーで待つことにした。彼女はいつの間にか降りてきて、なぜか黙ってそこに立ってたらしい。
「夜桜、どうした?」
何をしているかなと俺はソファーから立ち上がり、彼女の前に行った。彼女が頭を下げていても、木の床に彼女の表情はしっかり映っていた。彼女の顔を見ると、何かを深く考えているよだった。
彼女は何か酷く不安を感じたみたいで顔色が悪く、少し震えている。俺は何かしたかな。上に行く時は全然平気そうだったのに。
「何かあったの?」
彼女に聞いても何も返事がない。ただ目の前に立っていているだけ。俺は彼女の肩を掴み、もう一度真剣に尋ねた。
「うわ!」
「夜桜?大丈夫か?なんかぼーっとしてるけど何かあったの?」
俺が肩を掴んだことで驚いた彼女はやっと顔を見せてくれた。
彼女が何かで彷徨っている事は明白だ。彼女は隠し事が全然得意ではない。何もかも顔に出てしまうからだ。それはいい事でありながらこの世ではそういう人が騙され、傷つけられるばかりだ。
「あのさ、奏くんに迷惑掛けちゃってごめん。」
「一体どうした?急に謝って。」
本当にどうしたと思いながら彼女はただ口は閉じ、何も話してくれない。歯で唇を小さく噛んだ。そしてまた顔を下げた。
「あなたがなんで私に会いに来たのかずっとわからなかった。初対面の私にそれほど時間を割いてくれるなんておかしいと思ってた。ただ学級委員長ってだけなのに、なんで私にそんなに優しくしてくれるの?」
彼女は顔を上げ、俺を凝視する。正直彼女が目を逸らさずに俺を見つめたのは初めてだ。彼女なりに何かの覚悟ができたのだろう。
「俺だってよく分からないけど...」
「けど?」
なんで彼女にそこまでするかなんて一度も考えたことなんてない。なんと答えたらいいのか分からない。
分かるのはただ彼女を俺みたいに後悔させたくないだけた。単に彼女の能力に興味が湧いて会いに来たんじゃない。そんな単純なことなんかじゃないのは明白なのに、上手く言葉にできない。
「もしかして話せないことなのかな?そうなら無理矢理話させることなんてしなよ。ただ本当のことが知りたいだけだ。」
彼女の声は少し冷たく感じた。
今彼女に伝えないともう機会がやってこないし、彼女との間に大きいな壁を作ってしまうと悟った。
「俺は夜桜を一人にしたくなかった。俺は昔の自分がしたことに後悔してばかりだ。夜桜と出会えたのも何かの縁で、だからあんたに純粋で鮮やかな人生を送らせてあげたいと思った!」
その時に何処からか風が吹いてきて、俺の心のもやもやを遠い場所に運んでくれたような気がした。そして彼女に対して初めて、他の人には感じたことのない感情を持っている自分に気づいた。