買い物をしたあと、私と彼は歩いて帰ってきた。家に帰ったから食材を冷蔵庫に入れた。すると私の目に映ったのは彼の赤くなった手だった。

 無理をしてまで重いものを持ってくれたからだ。本当に何もかも彼に助けられてばかり。正直彼はなんで私なんかにそんなに優しくしてくれるのかは未だ不明だけど、友達というよりかは清水先生みたいに面倒を見てくれる人のような感じがする。

 それより今日はハンバーグを作るつもりだったから一人分増えたって問題ない。

「奏くん、料理作る時はなんかコツとかある?」

 玉ねぎやひき肉を混ぜて下処理が済んだら、焼く寸前に私は奏くんにそう聞いた。何故なら彼が作ったものからは清水先生の料理と似たような味がするからだ。清水先生に聞ければ良かったと思うことが山ほどあった。やっぱり失ってから大切なことに気づくんだってあの時初めて思った。

 だからこそ尚更彼に聞きたかった。

「そうだな。正直特に何を入れたら美味しくなるという訳ではないんだよな。清水さんにも言われたんけど、気持ちが大切だってな。後は何度も作ることかな。」
「気持ちね。知ってはいるけど上手くいかないのよね。」
「そうなの?俺は喫茶店でもそうだけど、他人が俺の料理を食べた後の表情を見るのが好きなんだ。だから食べた人に幸せを届けたいってのが俺の料理の気持ちかな。」

 清水先生も同じ気持ちでやってたんだろう。私は自分で食べるだけだから、正直このような気持ちを込めることはない。本当にそこが足りなかったのかもしれない。でも今は彼に美味しく食べてもらいたい。この気持ちで作ったものは果たして違うのだろうか。それを見るのも楽しみだ。

「うん、やってみる。」
「なにか手伝う必要はある?」
「今のところ大丈夫かな。」
「そうか、必要だったらいつでも言って。」

 彼がそう言うのはとても頼もしいけど、今回ばかりは自分でやりたい。そうでないと報うなんて言えないしね。

 私は頭を縦に振り、そして何とか彼を追い出したい感じで手を振った。彼も素直にリビングで待っててくれて良かった。もう何を作るかはバレちゃったけどね。

 そういえば昔清水先生はよくハンバーグを作ってくれてたんだけど、それは簡単そうに見えた。私も作ってみようと思いつつも、いざ作ってみたらその美味しいさがどうにも表現できなくて悩んでた。けど今ならやれる気がする。清水先生に教われた経験と今心にある気持ちを料理に込めることで、きっと上手くいくはずだと信じている。