さっきの場所はいったい何だったのだろう。清水先生と会ったことは紛れもない事実だ。でも私は奏くんの家でご飯を食べていたのに。それにさっきまでボンヤリとしていた記憶は、今じゃ鮮明に思い出せる。
 思い返せば、私はきっと倒れてたんだろう。そしてここは多分奏くんの部屋で、私は今彼のベットの上なんじゃないかと思う。それにしても久しぶりにふかふかなベットで眠れて、不思議な感じがする。家ではいつも布団を畳の部屋に敷いているだけ。やっぱりベットって全然違うんだね。

 色んな事を考えていても仕方がないと思い、私はさっさと起きた。そう言えば彼が私をここまで運んでくれたのかと思うと、申し訳ない気分になっちゃった。

 私が立ち上がると同時に日差しが差し込み、目が開かないくらい眩しかった。けどよく見るとその背後には密かに虹が隠れていた。それはまるで清水先生から貰った最後のプレゼントかのようだ。

 しばらくしたら私は部屋から出て、リビングに戻ろうとした。私がドアを開くと、彼がそこに立っていた。どうやら電話をしてるみたいだ。彼は私を見て、少し驚いたように電話を切った。何を話しているかと気になったが、彼は慌てて切ったから、私に知られたくないじゃないかと思ってあえて聞かないことにした。

「やっと目を覚ましたか。良かった。倒れた瞬間どうしようと思って慌てたんだよ。」

 彼はすぐに私に声をかけた。そして嬉しそうに語った。私はリビングの壁にかかっている時計を一瞥して、もう既に四時を過ぎでしまっていることに私は驚いた。しかもまたしても彼に迷惑をかけちゃった。

「迷惑かけちゃってごめん。」
「別に迷惑じゃなかったし、元々予定とかないから気にしないで。」
「もうこんな時間だから、買い物はまた今度にするよ。じゃ帰るね。」

 私が部屋を出ようとした途端に彼は私の手を掴んだ。私はふっと顔を彼に向けた。彼は何か言いたいみたい。

「もし夜桜がよければ、これから買いに行ってもいいじゃないか?スーパーの近くにいい店があって、そこで晩ごはんを食べたらいいよ。」
「何となくだけど、俺が清水さんの名前を言ったから倒れたんでしょ?だから俺のせいでもあるしな。」
「別に奏くんのせいじゃないよ。ただびっくりして。清水先生のことを思い出しただけ。」
「そうなんだ。清水さんと何かあった?」

 彼がそう聞いてくると思っていなかった。私は一瞬頭が真っ白で何を言ったらいいのかわからない。正直彼にこのことを話してもいいけど、彼は私の事、嫌いにならないか心配だ。だからこそ彼に話すべきか躊躇をしている。清水先生は私を許してくれたけど、結局私が彼女を殺したことは明白だ。
 私はしばらく考えた。彼は私の家の事情を知っているから、そう驚かないかもと。それでも少し怖い。

「別に話さなくてもいいよ。夜桜の事だし、絶対に言えとかじゃないから。」

 私が口を開く前に、彼は私の表情を見て、私が凄く迷っているって分かったんだろう。でも私の心の中ではもう話すっていう覚悟ができているんだけどね。しかも彼がそんなことで私を避けたりしないと信じてみたい。