それからしばらく歩いた。段々と近づいているけどやっぱり顔が見えない。正直に言うとやっぱり怖いと思う。ここは私が犯した罪を罰する場所なのかもしれないと思うと、足が勝手に止まる。自分は一生誰の役にも立たないとは思う。それなのに暖かさをくれた清水先生に対して、何も報えなかった。

 私はいつも、自分はいつか亡くなった人達の祟りを受けて死ぬと思っていた。それは私は他人を傷つけてきたから。なのに図々しく生きているなんて。今の私にできることは、ただ清水先生に謝るしかない。受け入れられるかはわからないし、人生は難しくて不確定要素ばっかりだ。
 なぜかこの空間の中にいると負の感情しか出て来なく辛い。私はいったい何のために歩き続けているんだろう。正直このままこの場所に居てもなんにも変わらない。
だけど他人を傷つけずに済む。

 そう思うと足が勝手に止まって動き出せなくなった。なのに涙はその反対に溢れ出した。何だか大事なことを忘れていたかのように思えた。誰かと出会って、私は助けられてばかりだ。さっきまでいた世界で、私は誰に助けられ誰を想っていたのか。この黒い霧の世界から出て、せめてそれを確かめたいと私は強く願った。その気持ちが私を推し、清水先生の元に。

「ごめんなさい、清水先生。私は何一つ恩を返すことができなかったのに、あなたを死なせてしまった。本当にごめんなさい。」

 私は清水先生の目の前で、そう謝った。その時私はやっと清水先生の顔が見られた。
 先生はいつもと変わらず優しく微笑んでいる。

「いいのよ、あなたも立派になったね。そして大切な人がこれからきっとあなたの側に現れると信じているよ。あなたと出会えて一度も後悔してなどいないわ。むしろ嬉しく思う。」
「多分もう会えないと思う。強く生きていて。決して諦めたりしないで前に進んで、世界の片隅まで見てきて。」
「はい!ありがとうございました、清水先生。」

 先生に謝ったことで、ずっと心の奥に刺さっていた棘が取れ、心が楽になった気がした。
 清水先生ともう二度と会えないと思うと、涙が勝手に落ちてきた。私は清水先生と小指を結び合い約束を交わした。強く生きていくとね。

「約束ね!いつも君を見守っているよ、天空の上で。さようなら、雪。」

 雪と呼ばれる時がまた来るとは。清水先生だけがそう呼んでくれていた。清水先生はそう言うと、星のように瞬く間に散った。そして周りを照らした。

 そしてこの空間は光に満ちたと同時にパッと消えていった。目を覚ますと私は見知らなぬ部屋にいた。先生に触れた温かさが、まだ微かに手に残っている。