待っている間はずっといい匂いがしてきていた。そのせいで、さらにお腹がすいてきた。彼の料理がとても楽しみだ。他の人の料理を食べる機会なんてほとんどないから。

 こっちからは彼の背中しか見えないけど、たまにちょっとだけ見える横顔が、笑顔いっぱいで、楽しそうに料理しているのがわかる。
 私も自分でご飯を作っているから。ご飯を作っている時の気持ちによって、その美味しさも変わる。

 だからとても楽しみだ。

「お待たせ。今日はオムライスを作ってみたよ。是非感想を聞かせてね。」
「奏くんは料理を作るの好きなの?すごく楽しそうに作ってたね。」

 彼が出てきた瞬間に、香ばしい匂いがこの空間に漂った。

「そんなに楽しそうだった?!まあいいからとりあえず食べてみて。」
「じゃ、いただきます!」

 私はお腹がもうペコペコで、少しでも早く彼の料理を食べたいけど、彼が出してくれたオムライスは艶々してて食べちゃうのが少し勿体無いくらいに綺麗だった。
 そんな美味しいそうなものを作ってもらうなんて何年ぶりだろう。清水先生もよく美味しい料理を作ってくれたり、一緒に新しい料理を研究したりしたもんだ。それきり、もう誰も私と楽しく料理をしてくれる人なんていなかった。

 なぜか彼と一緒にいると色んな思い出が蘇って来る。とりあえず口に入れてみた。

「美味しい!え、嘘!なんでこんなのできるの?!」

 それは口に入れた瞬間、卵が全体の味を包み込んでまろやかにしていた。卵が凄く柔らかくて、ほんのり甘い味がする。同時に懐かしい味の感じもしなくもない。
 彼の料理はやっぱり清水先生のと似ている。優しさが篭った味。

「そう言われると嬉しいな。」

 彼は凄く嬉しそうに笑って言った。そして少し照れたみたいに耳が赤くなった。
 そんなことに奏くんは慣れていると思ったけど。なんかモテそうだから、友達がよく家に来たりするかなって思った。

 色んなことを考えてたら、あっという間に食べ終えってしまった。ちょっと残念な気さえした。

「ご馳走様でした。あの...これの作り方教えてもらえないかな?」
「もちろんいいけど、俺も他の人から教えてもらったんだ。俺でよければ、全然いいよ。」

 確かに彼の家系もなかなか有名ではありそうだから、料理を自分で作るイメージがないんだよね。

「誰に教えてもらったの?お手伝いさん?」
「いや、その人は事故で亡くなったんだよ。バイト先で知り合った人。名前は確か清水澪さんだった。」

 私はその名前を聞いた瞬間、鳥肌が立った。まさかその名前が再び頭の中に響くと思わなかった。同時に清水先生を殺したという罪悪感がよみがえった。そして何故彼の料理は清水先生のと同じ味がしたのかも、ようやくはっきりした。