「そう言えば、夜桜さん、俺のこと奏って呼んでよ。俺も夜桜さんのことを夜桜って呼ぶから。」
「いいけど、急にそう言われても。じゃ、奏くんで。」
「決まりだな。」
彼は決まりと言ったけど、なんだか少し寂しそうな表情だった。「どうしたの?」って聞きたいけど、彼はいつも言いたいことがあれば何でも言ってくる人だから、逆になんか聞きにくい。
「グゥー」
その音とともに私は顔が燃えるほど赤くなった。お昼ご飯食べるのを忘れていたのを思い出した。そして後悔している。
「夜桜、まさかお昼ご飯食べてなかったの?」
「さっき、食べようとしてたら奏くんが来たから。それでバタバタしてたら忘れちゃって。」
「そうだったのか。そんなに恥ずかしがるなよ!なら俺ん家で食べたら?ここから近いから。」
格好悪すぎて涙がでそうだった。でも彼の前でいつも泣いてばかりだから、もう泣きたくない。
しかもせっかく誘ってくれたし、断るのも悪い気がする。
「じゃお言葉に甘えてお邪魔します!本当にいいの?」
「もちろん、こっちこっち。」
彼に連れられて右に曲がって、ちょうど二人が隣に並んで歩けるくらいの路地に入った。そこには古そうなマンションがあった。
「ここだよ。夜桜の家とは雲泥の差だけど、どうぞ。」
他の人の家にお邪魔するのは初めてだった。私の家は立派で大きいけれど、片付けるのが本当にしんどい。そう思いながら彼の後ろに沿い、そのマンションの二階まで上がった。
「そんなことないよ。私の家なんてただ大きいだけだし。お邪魔します。」
私がそう言ったと同時に、音瀬はドアを開けた。
玄関からリビングに通された。リビングはとても綺麗に片付けられていて、高校生の男子が一人で住んでいるとは思えない清潔感があった。しかも家の中は外から見たよりも大きいし、日差しもちょうどいい。そして何より居心地が良さそうだ。
彼は入った直ぐにエアコンをつけてくれた。涼しい風が降ってきて、とても幸せな感じがした。
「そこに座ってて。俺はちょっとご飯作ってくるよ。」
「私も手伝うよ。」
「いいから!夜桜はあそこに座ってて。」
彼はどうしても私に座れって言う。何がしたいんだろうって思いつつも、ただ座っているしかできない。私は携帯を出して、見ている振りをしているだけ。
それにしても家にお邪魔している上にご飯までご馳走になるなんて、申し訳なくなってきた。