「もう夏休みか。」

 目が覚めてカーテンを開くと、日差しが差し込んで目が開けなくなった。光と共に暑さが伝わってくる。

 そしていつもと違う光景が目に入ってきた。外が賑やかで明らかにいつもより人通りが多い。色とりどりの服や靴が目に映って、走っていた子やゆっくりと歩く大人が通っていた。
 みんなは笑顔で歩いて通っていく、まるで私だけが置き去りにされた感じだ。

「そうだよね、夏休みに入ったから皆どこかに出かけるのよね。」

 こんな日に出かけるのは嫌だけど、食料もそろそろ底をつくし、買い出しに行かなきゃ。
 私はカーテンを少し握った、こういう時に誰かいたら心強いと思うたら尚更一人と感じてしまう。

 そういえば、音瀬は伝えに来るって言ってたのに来ないな。そもそも連絡先も聞いてなかった。今度聞いてみようかな。

「買い出しは後にして、先ずは茶道から始めようかな。」

 私はさっさと横に置いてあった撫子柄の着物を着て、茶道の道具を取った。茶道が終わった時間は昼ごはんにしてはちょっと早過ぎたから、剣道の場所を片付けに行くことにした。
 着物は動きにくいし汚したくないから、適当にベージュのTシャツと青いショートパンツに着替えた。剣道の場はちょっと大きいから毎度掃除の度に走り回らないと絶対に終わらない。

 掃除を終えた木製の床は光に反射してピカピカと目に映った、それでとても達成感を得た。

「やっと終わった。汗だらだらで気持ち悪い。」

 それは服が背中にくっ付くくらいに汗まみれになった。私はシャワーを浴びることに。お風呂から出た時には、もう昼過ぎになっていた。

「ピンポーン」

 お昼ご飯を作ろうとしていたら、玄関のチャイムが鳴った。私は多分音瀬だと思って、慌てて玄関に行き扉を開いた。扉を開くと彼が立っていた、黒いTシャツに空色のジンズを着ている。
 それに引き戸を開けただけで大量な暑さが吹き込んできた。夏はなんでいつもいっぱい熱情を分けてくれるのだろう。

「こんにちは、夜桜さん。今時間ある?」
「あるけどその前に連絡先教えてよ。不便なんだから。」
「そういえば教えてなかったな。いいよ、もちろん。」

 彼が玄関に立ったまま私の質問を聞いて、ケラケラと笑った。何が面白いのだろうと思いながら私は疑いの目差しで彼を見たけれど彼は話すつもりが無さそうだ。

 それにしても普通にいいって言われて、なんかほっとした。もし嫌とか言われたらどうしようかなって思ってたから。連絡先の次は買い物だ。彼に買い物に付き合ってもらえば、買い物のついでに話もできるし、まさに一石二鳥。

「私、今から買い出しに行くところだったの。音瀬さん、いいところに来たね!付き合ってもらえないかな?」
「まあ別に予定があるわけでもないからいいよ。」

 彼は笑い顔で頷いた。

「ありがとう。」

 私はお昼ご飯のことをすっかり忘れ、音瀬と出かけた。私は引き戸を閉めて鍵をかけた。外を出るといつもと違う道に彼に案内してくれて。その道には綺麗な花屋さんや大きな公園に丸い噴水があった。
 いつもと違う道にはサプライズが沢山あって凄く嬉しく思えた。

「昨日、クラスの担任に夜桜さんが行くってこと伝えといたよ。夏休みが終わるころに手続きに来られるかって言ってたよ。時間ありそう?」
「もちろんあるけど、二学期からもう学校に行くってこと?!」
「それがいいかなって思ったんけど、だめかな?」

 私はちょっとびっくりして大きい声を出してしまった。別に悪くもないんだけど、なんとなく早すぎる気もする。でもここでまた逃げたら、一生勇気が出せなくなるかもしれない。
 
「いいよ、ちょっと驚いただけ。」
「ならよかった。」

 彼が私に振りかえた。その後ろに大きな太陽が映って、あんまり表情が見えなかったけど彼の口がの端っこが上がるのをはっきりと見えた。