彼の話によると、音瀬一家に生まれた者には音楽家になる責務があるけど、音瀬一家の一人っ子として生まれてきた彼は音楽の才能があまりなかった。だから彼のお母さんはよくおじいちゃんに叱られてた。それで彼が家に籠るようになり、さらに自分のお母さんにストレスをかけ、その結果お母さんは死に追いやられた。
 彼のお父さんも結局彼を捨てて家を出た。

 私はそんなことを聞いて、深く考えた。
 彼は多分私に会いに来たのは罪悪感によるのだろう。そんな自分を憎んでいても、どうしようもなかった。そんなことで各地の高校を転々としていた時に、偶々私の噂が耳に入ったから、私に会いに来たというわけだ。

 彼と同じ過ちを私に繰りさないで欲しいから会いに来たのか。それでも彼は必ず私の面倒を見ないといけないなんてはずもないのに、彼は優しさから私を放っておけなかったのだろう。

「本当にお人好し過ぎなんだよ。」

 私は泣きながら言った。彼を叱った私は本当に馬鹿みたい。そして何年も一人で我慢してきた気持ちを吐き出し、何だかとてもすっきりした感じがした。今まで隠してた涙が勝手に流れ落ちてきた。
 そして同時に彼のことを知りたいと思った。

「夜桜さん、もう一度学校のこと考えてもらえないかな?」

 彼は真剣な声でそう言った。私はつられて顔を上げた。そしてその時私が見たのが、彼の強く確信した眼差しだった。

「そこまで言うのであれば一度騙されたと思って行ってみるよ、学校に。」
「本当に?」
「うん。」

 彼は喜んで嬉しそうに笑った。私もそんな彼の顔を見てつい笑顔になった。そして心に抱えてた重い石が消えたようだった。