「ごめん、少し考えさせてくれる?」

 私は何とか話せたけど、暗い顔になっているのが自分でもわかる。彼は何故こんなことを言い出したのか。

「そんな顔すんなよ。無理矢理連れていくつもりはないから。あくまであなた次第だから。」

 彼の顔から本音の言葉では無いのは明白だ。でもそう言ってくれて安心した。学校か、もう何年ぶりだろう。不思議なことに先生達も私を一刻も早く手放したいように何の成績がなくとも進学できた。
それで今更学校に行ったところで生徒だけではなく先生すらにも嫌われてしまう。

 何故か心が引き裂かれてしまいそうに傷んだ、私はただ大きいなため息をした。そして無言のままにした。

「そうだ、さっき俺の能力の話してたよね?まぁ簡単に言うと俺の能力は不死不老で、周りの人の傷を癒すことができる。たとえその人が重症だったとしてもね。」
「まるで私の能力と正反対ね。」

 予測はしていたけど、そこまで逆だと思ってなかった。人を助ける能力はきっと役に立つだろう。でも彼は何故かさっきの笑顔をなくして少し悲し気だ。

「人を助ける能力なんていいな。私なんてこの能力のせいで、家の人に嫌われて結局私以外亡くなった。」
「それは俺だって同じさ。癒せる力を持っていても、心が癒せない限りどうにもならないから。」
「俺はもう家を離れてはや16年。今になっても家に帰る勇気がなくて、他の場所でマンションを借りてるんだ。」

 私は驚いた、まさか彼も同じく能力によって、穏やかな人生を無くしたと思わなかった。そして失礼なことを言ったと後悔した。私は服の下っ端を強く握った。

「ごめん、何も知らないのに勝手にいいなとか言っちゃって。」
「別にいいさ。勘違いされてもおかしくないと思うから。」

 彼は真剣な顔をしているけど、怒っていなくて良かった。すると私は手の力を抜いた。

「私のお母さんと縁談があったということは、音瀬さんの故郷もこの町なの?」
「そうなんだ。実はこの町に帰ってきた理由は、あなたの噂が耳に入ったからなんだ。」

 そんなことを聞いたら何故か胸がさらに苦しくなった。私は彼に会えて嬉しいけど、私と関わった人には皆悪い結末が訪れる。

「実は思ってたんだ。あなたの能力と俺の能力を合わせれば、消えるじゃないかなって。」

 彼は鋭い視線で私を見ている。私はいつも彼の言葉に驚かされてばかりいる。でもよく考えたら確かに彼は人を癒す。私は人を危険に晒す。二人が同時に居たらどうなるだろう。

「確かに興味深いわね。でもそんなの誰にも分かる訳が無い。」
「とりあえず、俺の言う通りにして、学校に来て欲しんだ。そして、俺を信じて欲しい。俺はそう簡単に可能性を諦めない。」

 彼は私から目を離さず、なんの迷いもないまっすぐな瞳で私を見つめている。それは彼の本心からの言葉だろう。それでも私が学校に行ったら、様々な人と会うことになる。人を傷つけるかもしれない以上、私は学校には行くべきではないのだ。
 そして私は何と返事したらいいか分からなくて、ずっと黙っている。

「もう日が暮れてきたし、夜桜さんにとっても少し考えたほうがいいでしょ?明日、家に行って返事を聞くよ。」
「うん、分かった。考えてみる。」

 その後彼は私を家まで送ってくれた。途中は私も彼も何一つ話さなかった。
 けど彼は私の歩くペースに合わせて、ゆっくりと家まで歩いてくれた。

 私は彼と別れて、私は家に入った。そして複雑な気持ちを抱え布団にそのまま倒れこんだ。